大阪メトロが、本格的に可動式ホーム柵(ホームドア)を整備し始めて15年が経過しました。
まだ登場したての設備ということもあり、あまり詳しく解説しているサイトがありません。
御堂筋線については以前書きましたが、比較的人気な記事になっていることから、今回「大阪メトロ全路線版の情報まとめ」として解説します。
当サイトでは基本的にわかりやすさを重視する観点で「ホームドア」の名称で統一していますが、この記事に関してのみは正確性を期す為、正式名称である「可動式ホーム柵」をベースとして記載しています。
全国版についてはこちらからご覧ください
可動式ホーム柵の導入まで
1.転落者数と訴訟
1995年、御堂筋線天王寺駅で視覚障害を持つ方が線路に転落する事故が起き、訴訟に発展しました。この裁判は2003年に和解しましたが、この事故をきっかけに、ホームドア導入の必要性が提唱されるようになりました。
実際1993年~2002年度の10年間で、転落時事故が379件発生していました。
このうち、路線別の内訳は以下の通り。
御堂筋線:173件(46%)
谷町線:73件(19%)
四つ橋線:26件(7%)
中央線:30件(8%)
千日前線:30件(8%)
堺筋線:31件(8%)
長堀鶴見緑地線:16件(4%)
ご覧のように、路線別だと圧倒的に御堂筋線での発生率が高くなっています。
駅 | 転落件数 |
---|---|
天王寺 | 22 |
梅田 | 19 |
動物園前 | 16 |
なんば | 14 |
東三国 | 10 |
淀屋橋 | 10 |
本町 | 10 |
江坂 | 9 |
中津 | 9 |
心斎橋 | 9 |
また、2021年夏に出された文献によると、最も転落者数が多かったのは天王寺、次点で心斎橋であったというデータがありました。
2.固定式ホーム柵の試験設置
これを受けてまず、固定式ホーム柵の試験導入が2006年に天下茶屋駅1番線にて行われました。
可動式でなく固定式が模索された理由としては
・可動式ホーム柵よりもコスト面で有利
・軽量で導入が容易であること
・終端駅・降車専用ホームといった場所では有効な措置である
とされたことがきっかけです。これら条件が揃っていたのが天下茶屋駅1番線でした。
しかしながら、実際に試験やモニター調査などを行って得た結果としては、
・一定の効果はあるが開口部があるので転落防止に確実とはいえない
・柵の外側を通る危険性
・子供が遊ぶなど不安全行動の可能性がある
・全体的な評価としては「あったほうがよい」「ないよりはまし」という程度
という評価が下され、可動式ホーム柵の導入へと動くことになりました。
その後、この固定式ホーム柵は天下茶屋駅1番線にしばらく取り付けられていましたが、堺筋線全駅への可動式ホーム柵導入に伴い、2022年5月で姿を消しています。
3.可動式ホーム柵の導入へ
2006年の時点で可動式ホーム柵やホームドアが導入されていたのは、1981年開業のニュートラムと、2006年開業の今里筋線でした。
可動式ホーム柵導入にあたっては、電車の停止位置制御に極めて細かな精度が要求されます。
このことから、利用客こそ最も少ないものの
・ATOが用いられる長堀鶴見緑地線は、7段ブレーキで「+-50cm」の停止精度を実現出来る
・2006年12月に国土交通省から発布された「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両などの構造及び設備に関する基準」にて規定されている「車両の旅客用乗降口の位置が一定しており、鉄道車両を自動的に一定の位置に停止させることができる」の条件に最も適している
ことから、既存路線初の導入路線として長堀鶴見緑地線が選ばれました。
続いて、既にATC式を採用している千日前線は、TASC(定点停止装置)の導入が容易であることから、長堀鶴見緑地線に続いての導入が実現しました。
千日前線への導入にあたっては、最前部の扉にスケールを貼り付け、毎月1-2本程度のテストをそれぞれ異なる編成で行わっていました。
4.御堂筋線への導入
序文で書いたように、ホーム転落事故が最も多いのは圧倒的に御堂筋線で、全路線の46%にものぼりました。
長堀鶴見緑地線で既存路線への取付を、千日前線で大阪市営地下鉄の標準規格である20m級路線への導入ノウハウを獲得したことから、いよいよ本命である御堂筋線へ導入されることとなりました。
御堂筋線は建設年度が古く、可動式ホーム柵の戸袋部分重量が500kg以上あることから、ホームの先だけで支えるには強度が不足する箇所が出てきました。
この解決のため、黄色の鋼材でホーム先を支える工事を実施。この際に電気設備の移設も必要となった為、3ヶ月の期間が必要でした。
天王寺・心斎橋設置後は、一旦設置を中断して交通局自体の民営化を迎えて「大阪市高速電気軌道」に事業体が変化した後、2020年11月より中百舌鳥駅から設置工事を再開。
2022年3月末までに、7年をかけて全20駅への設置工事が完了しました。
可動式ホーム柵の解説
ここからは、各号線に取り付けられている可動式ホーム柵・ホームドアを解説していきます。
製造メーカー
御堂筋線 | 日本信号 |
---|---|
谷町線 | 京三製作所 |
四つ橋線 | 西梅田、大国町 – 日本信号 その他 – 京三製作所 |
中央線 | 京三製作所 |
千日前線 | 京三製作所 (4 |
堺筋線 | 京三製作所 |
長堀鶴見緑地線 | 三菱電機 |
今里筋線 | 三菱電機 |
ニュートラム | ナブテスコ |
各路線における可動式ホーム柵のメーカーは上記の通り。
なかなかメーカー情報が見つかりにくい可動式ホーム柵ですが、中央線以外は何かしらの出典や根拠があります。
リンクや脚注がある項目は、公的およびメーカー側で記載がある確実なもの、未記載はそれらがないことから、他の筐体との相似性や、工事中に掲載された貼り紙などから推測されるものです。
御堂筋線
ここからは、各路線ごとのメーカーやドア幅について解説していきます。
御堂筋線の可動式ホーム柵は、2015年に設置された天王寺・心斎橋の2駅より始まりました。
初期導入タイプ(2015)
可動式ホーム柵はまず、転落事故が多かった天王寺駅、および心斎橋駅へ導入が始まりました。
この2駅での先行導入時には迅速な導入を行うためにTASC・ATOなど停止支援装置は導入されず、運転士さんが手動で停止する「根性止め」を行っていました。
この関係で若干の余裕が必要なことから、ドア部分の開口部幅は2,600mmとしています。
車両規格が同一である千日前線の可動式ホーム柵より、300mm広げられています。
初期導入タイプでは、ドア開時に点灯するランプが異なり、LEDではなくナツメ球のようなボヤっとした発光なのが特徴です。
量産導入タイプ(2020-2022)
天王寺・心斎橋駅での導入後、2020年からは本格的に御堂筋線全線での導入がスタートしました。
ドア自体の基本的な仕様は変わっていませんが、
・ドア異常時の非常出口が設けられたこと
・サインシステムに準拠した標示が行われたこと
・ドア開時に点灯するランプがLED化したこと
など微妙な変化もあります。
ホームドア開閉の自動化
可動式ホーム柵の導入後も、列車との連携は行われておらず、
列車到着
▼
車両のドア開操作
▼
可動式ホーム柵のドア開操作
という一連の作業を、車掌が手動で行っていました。
しかし,大阪の主要路線である御堂筋線では、
・僅かな停車時間の増加がシビアな遅れに直結すること
・1時間あたりの運行本数が減り、混雑率が悪化したこと
・運転士への負担が増したこと
から、2020年より後付で車両のドア開操作と連携する措置を実施、およびTASCの導入が行われました。
自動でドア開作業を行う為に、編成最前部に定位置停止センサー(写真左側)を設置。
センサーから発するレーザー光が電車を認識・検知すると、駅へ停車したと判定してホーム側ドアが自動で開く仕組みとなりました。
また、2022年8月1日からはドア閉も車内のドア閉めとの連携化が行われました。
4号車に設置されているTASC地上子が車両側センサを読み取れる場合、ドア閉め時に自動で可動式ホーム柵側も閉扉が行われるようになっています。
これは10A系の引退を待った上で施行されたことから、何らかの理由で10A系が対応できなかったものとみられます。
仕様等
製造メーカー:全駅 – 日本信号
開口部:2,600mm
設置時期:2015年~2022年
御堂筋線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
【先行導入タイプ】
2015年2月13日:天王寺駅
2015年3月1日:心斎橋駅
【量産導入タイプ】
2020年11月1日:なかもず駅
2020年11月28日:江坂駅
2020年12月26日:新大阪駅
2021年1月23日:西中島南方駅
2021年3月20日:中津駅
2021年3月27日:梅田駅
2021年4月24日:昭和町駅
2021年5月29日:西田辺駅
2021年6月26日:長居駅
2021年7月24日:あびこ駅
2021年8月21日:北花田駅
2021年9月11日:新金岡駅
2022年1月22日:動物園前駅
2021年10月2日:淀屋橋駅
2021年10月30日:本町駅
2021年12月25日:大国町駅
2022年1月15日:東三国駅
2022年1月22日:動物園前駅
2022年3月5日:なんば駅
参考資料: [R1]
谷町線
初期導入タイプ(2020、東梅田)
既存路線への導入としては、御堂筋線に続いて4路線目の導入となりました。
まずは東梅田駅へ先行導入されており、筐体は京三製作所製となっています。
また谷町線への導入時から、可動式ホーム柵の角面にラインカラーのテープが貼り付けられる仕様となりました。
この措置は、長堀鶴見緑地線や千日前線などの既設置路線へは適用されていません。
量産導入タイプ(2024~)
東梅田こそ早かったものの、その他の駅へはかなり後回しにされました。
2024年に南森町での設置が再開して以来、ようやく順次各駅へ取り付けられています。
四つ橋線・中央線と同様のものが取り付けられているようなので、京三製作所製でしょうか…?
仕様等
製造メーカー:
東梅田 – 京三製作所
その他駅 – 不明(京三製作所?)開口部:2,600mm
設置時期:2020年~
谷町線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
2020年2月1日:東梅田駅
2024年11月27日:南森町駅
2024年12月13日:天満橋駅
2025年1月19日:谷町四丁目駅
2025年2月中旬:谷町六丁目駅
2025年3月中旬:谷町九丁目駅
参考資料: [R2]
四つ橋線
既存路線への導入としては、堺筋線に続いて6路線目の導入となりました。
西梅田・大国町に投入された先行導入モデルは御堂筋線と同じ日本信号製が、量産モデルは谷町線と同じ京三製作所製が投入されています。
西梅田駅設置の日本信号製。
こちらはなんば駅に設置の京三製作所製。ドア窓の面積が微妙に異なっています。
仕様等
製造メーカー:西梅田、大国町 – 日本信号
肥後橋~住之江公園 – 京三製作所開口部:2,600mm
設置時期:2021年~
四つ橋線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
【日本信号製】
西梅田駅:2021年11月20日
大国町駅:2022年2月19日
【京三製作所製】
肥後橋駅:2023年12月22日
本町駅:2024年1月28日
四ツ橋駅:2024年2月24日
なんば駅:2024年10月3日
花園町駅:2024年10月11日
岸里駅:2024年12月26日
玉出駅:2025年1月30日
北加賀屋駅:2025年2月下旬
住之江公園駅:
参考資料: [R3]
中央線
既存路線への導入としては最後、7路線目の導入でしたが、大阪・関西万博にあわせて導入されたこともあり、導入スピードは非常に早いものでした。
導入開始は2024年3月(森ノ宮)、導入完了は2024年9月(長田)と、僅か半年で全14駅への設置が完了しています。
四つ橋線と同タイプのドアとみられます。
黒の筐体
中央線だけの特別仕様として、谷町四丁目駅と夢洲駅へ導入された可動式ホーム柵は、他のものとは異なり黒色となっています。
大阪メトロでは、この2駅のみが黒の可動式ホーム柵となります。
Osaka Metroの公式YouTubeチャンネルによると、谷町四丁目駅のリニューアル時にホーム壁面を黒色としたことで、壁面色と合わせたデザインにしたことを理由としています。
こちらは夢洲駅のモデル。駅デザインと一体的なスタイルとなっています。
左は挟み込みなどを検知する異常検知灯、右はドア開灯です。
ドア開時には、赤のLEDランプが点灯します。
仕様等
製造メーカー:京三製作所
開口部:2,600mm
設置時期:2024年~
中央線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
夢洲駅:2025年1月19日(開業時)
コスモスクエア駅:2024年7月20日
大阪港駅:2024年7月12日
朝潮橋駅:2024年6月29日
弁天町駅:2024年6月8日
九条駅:2024年5月24日
阿波座駅:2024年5月11日
本町駅:2024年4月20日
堺筋本町駅:2024年4月6日
谷町四丁目駅:2024年3月23日
森ノ宮駅:2024年3月4日
緑橋駅:2024年8月1日
深江橋駅:2024年8月9日
高井田駅:2024年9月8日
長田駅:2024年9月13日
参考資料: [R4]
千日前線
長堀鶴見緑地線に続いて、既存路線としては2路線目の導入となりました。
可動式ホーム柵導入にあわせてATOも導入されましたが、可動式ホーム柵の開口部は長堀鶴見緑地線から300mm拡大した2,300mm(2.3m)としています。
尚千日前線では、可動式ホーム柵導入により狭くなる部分が出来ることから通行経路の確保が課題となった関係で、可動式ホーム柵導入にあわせて6駅・9箇所の停止位置変更を行いました。
仕様等
製造メーカー:全駅 – 京三製作所
開口部:2,300mm
設置時期:2014年~
千日前線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
2014年4月26日:南巽駅
2014年5月15日:北巽駅
2014年6月7日:小路駅
2014年6月28日:新深江駅
2014年7月:今里駅
2014年8月9日:鶴橋駅
2014年8月30日:谷町九丁目駅
2014年9月21日:日本橋駅
2014年10月19日?:なんば駅
2014年10月25日:桜川駅
2014年11月:西長堀駅
2014年11月22日:阿波座駅
2014年12月6日:玉川駅
2014年12月13日:野田阪神駅
参考資料: [R5]
堺筋線
既存路線への導入としては5路線目の導入となりましたが、冒頭にも書いたように固定式ホーム柵のテスト導入も行われました。
導入メーカーは京三製作所で統一されています。
初期導入タイプ(2020)
それを踏まえ、まずは2020年2月に堺筋本町駅へ初めて設置されました。
ドアは他路線と同じ通常の引き戸ですが、ドア開口幅は大きく広げられ、扉1枚あたりの幅は1,620mm、両扉で約3,240mmが確保されています。
当サイトでは独自に計測した数値として掲載していますが、YCS-infoさんによるとメーカー公称値は3,260mmとのことです。
これはTASCが整備されていないこともありますが、乗り入れてくる阪急電車とドア位置が異なることを踏まえて、幾分かの余裕幅を確保する必要があるためです。
運転席付近には、形式ごとの停止位置を示すマーカーが貼り付けられています。
上段が阪急3300系、5300系
2段目が阪急7300系
3段目が阪急1300系、8300系
最下段が大阪メトロ66系
を示しています。
量産タイプ(2022~2024)
それから2年後の2022年に、扉の開口部分が更に広げられて2枚扉式となった改良モデルが天下茶屋駅に初登場。
以後、堺筋線ではこのモデルがスタンダードとなっています。
ドア開口部は、大阪メトロ最大の4,000mmを確保しています。
ドア開灯は、他路線とは少し違うものが使用されています。
仕様等
製造メーカー:全駅 – 京三製作所
開口部:
1枚扉 3,260mm
2枚扉 4,000mm
設置時期:2020年~
堺筋線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
【1枚扉式】
2020年2月28日:堺筋本町駅
【2枚扉式】
2022年7月17日:天下茶屋駅
2022年8月28日:動物園前駅
2022年9月25日:日本橋駅
2022年10月23日:長堀橋駅
2022年11月27日:北浜駅
2022年12月25日:南森町駅
2023年1月29日:扇町駅
2023年2月26日:恵美須町駅
2023年3月5日:天神橋筋六丁目駅
参考資料: [R6]
長堀鶴見緑地線
既存路線への導入としては初めてとなりました。今里筋線と車両規格が同じこともあり、開口部幅は狭めの2,000mmです。
長堀鶴見緑地線のみ、先頭部分のドアがステンレスだけの形状となっている場所があります。
序文にも書いたように「ATO運転」「今里筋線と同じ寸法」ということもあって可動式ホーム柵の導入に最も適した路線ですが、今里筋線と異なりホーム幅員が狭く、可動式ホーム柵導入により狭くなる部分が出来ることから通行経路の確保が課題となりました。
この関係で4駅・6箇所の停止位置を変更すべく、乗降確認ミラーやATOパターン変更による停止位置の修正などを行いました。
ATO装置に三菱電機製を使用しており企業秘密情報もあることから、大阪メトロでは珍しく、可動式ホーム柵の製造に三菱電機が指名されています。
その証拠に、こちらの資料にて「この装置は三菱電機株式会社製」とはっきり記載があります。
仕様等
製造メーカー:三菱電機
開口部:2,000mm
設置時期:2010~2011年
長堀鶴見緑地線 設置スケジュール
※掲載しているのは筐体設置日ではなく、運用開始日です
2010年6月19日:大正駅で設置工事開始
2010年7月7日:大正駅で稼働開始
2010年8月28日:ドーム前千代崎駅
2010年9月6日:西長堀駅
2010年9月15日:西大橋駅
2010年9月24日:心斎橋駅
2010年10月3日:長堀橋駅
2010年10月12日:松屋町駅
2010年10月21日:谷町六丁目駅
2010年10月30日:玉造駅
2010年11月8日:森ノ宮駅
2010年12月11日:大阪ビジネスパーク駅
2010年12月20日:京橋駅
2010年12月29日:蒲生四丁目駅
2011年1月12日:今福鶴見駅
2011年2月4日:横堤駅
2011年2月10日:鶴見緑地駅
2011年10月31日:門真南駅
参考資料: [R7]
今里筋線
大阪市営地下鉄として、初めて可動式ホーム柵を導入したのが今里筋線です。フルスクリーン式ドアのニュートラムとは異なり、腰高式の可動式ホーム柵となりました。
他線とは異なり、ドア部分がアイボリーに塗装されているのが特徴です。
導入まで
今里筋線については、平成11年に開催された「8号線運営検討部会」の中で、
・転落防止、出発時の側方監視が省略できること
・運転業務が軽減できること
・長堀鶴見緑地線と異なり、車内モニターの省略が可能であること
を理由に、可動式ホーム柵の導入が決定されました。
長堀鶴見緑地線と同じ規格が採用された今里筋線ですが、運行システムはATOではなくTASCの導入にとどまりました。
これは運転士のやりがいを維持することもありますが、コストが安価だったことが主な理由です。
可動式ホーム柵設置にあたっては、当初は業務用軌道車5両を連結しての運び込みを行いました。
しかし、可動式ホーム柵自体の重量がかなりあることで、鶴見検車場から鶴見緑地北車庫間に設けられている連絡線のキツい勾配を走行する際にブレーキへの負担が相当あったことから、営業列車を用いての一斉搬入に変更。
これがかなり効果的だったことから、以降の可動式ホーム柵導入時は全てこの方法で実施しています。
営業列車で運ぶと、床面がホーム床と同じ高さでスムーズに搬入できること、また搬入量が多く確保できるメリットがあるようです。
車両の扉幅1,300mmに対して、可動式ホーム柵の開口部幅は2,000mmが確保されています。
ドア開灯は可動式ホーム柵の上部に取り付けられており、運転席からの確認が可能です。
仕様等
今里筋線 設置スケジュール
・2006年12月24日:全駅にて運用開始
ニュートラム
大阪市交通局で最も最初にホームドアが導入されたのは、AGT路線であるニュートラムです。
所謂「可動式ホーム柵」ではなく、唯一のガラス式フルスクリーンタイプドアで、絶対に転落しないシステムとなっています。
ホームドア製造・整備は神戸に本社があった「ナブコ」(当時)が担当。
現在、ナブコは帝人製機と合併してナブテスコとなっており、その子会社である「ナブコドア」が受け持っています。
車両の扉幅1,300mmに対して、ホームドアの開口部幅は2,000mmが確保されています。
余談ですが、高さは1,900mmです。
ドアは車両側ドアより0.5秒遅く開き、0.5秒早く閉まるシステムです。開動作に3秒、閉動作に3.5秒が採られ、平均停車時間は20秒となっています。
ドアはスチール製で耐塩処理が行われていますが、流石に経年40年ともなると劣化がみられるようになったことから、2024年より順次ホームドアの交換を行っています。
仕様等
製造メーカー:全駅-ナブテスコ
開口部:2,000mm
設置時期:2006年
ニュートラム 設置スケジュール
1981年3月16日:運用開始
北大阪急行
大阪メトロとは無関係ですが、参考までに御堂筋線と直通する北大阪急行についても記載しておきます。関西私鉄では、初めてのホームドア設置となりました。
Osaka Metroとは異なり、ドア部分がブラックとなっています。
仕様等
北大阪急行 設置スケジュール
2017年9月9日:千里中央
2018年2月24日:緑地公園
2018年3月15日:桃山台
2024年3月23日:箕面萱野・箕面船場阪大前
(江坂駅は大阪メトロ管轄なので除外)
参考資料: [R10]
導入まで
最後に、可動式ホーム柵導入までの大まかな流れを記載しておきます。
準備工事
可動式ホーム柵設置にあたっては、まず準備工事としてベースプレートを設置駅に取り付けます。
何気にこれ、工事中でしか見れないものなんですよねぇ…
御堂筋線などの古い駅では、ホーム先端の補強材を差し込みます。
この際、支障となる電設ケーブルの移転などが行われます。これだけでも3ヶ月程度の工期がかかるそうです。
施工日
施行日当日。終電近くの時間において、作業員の方が各号車付近に分散して荷下ろしの準備にかかります。
終電後(第三軌条通電時間中)に、可動式ホーム柵の筐体が積まれていた電車が到着。一斉に荷下ろし作業に入ります。
キャスターがつけられた可動式ホーム柵は、各号車のドア設置部分へと運ばれていきます。
この後、先程のベースプレート周囲枠に速乾性のモルタルを流入させて、一晩固めると設置完了となります。
動作時の様子
ツーマンかつTASC非連動駅における、ホームドア開閉の様子。
運転士・車掌の両方で同じ信号を確認しています。
全体の年表
1981年3月16日:ニュートラム 中ふ頭駅~住之江公園駅間開業。フルスクリーン式ホームドア設置
2006年12月24日:今里筋線 開業。全駅に可動式ホーム柵を設置
2010年7月7日:長堀鶴見緑地線初の可動式ホーム柵が大正駅にて稼働開始。既存路線への取付は初。
2011年10月30日:長堀鶴見緑地線 門真南駅にて可動式ホーム柵が稼働開始。長堀鶴見緑地線全駅へ設置完了
2014年4月26日:千日前線初の可動式ホーム柵が南巽駅にて稼働開始。
2014年12月13日:千日前線 野田阪神駅にて可動式ホーム柵が稼働開始。千日前線全駅へホームドア設置完了
2015年2月1日:御堂筋線初の可動式ホーム柵が天王寺駅(2番線)にて稼働開始
2020年2月1日:谷町線初の可動式ホーム柵が東梅田駅にて稼働開始
2020年2月29日:堺筋線初の可動式ホーム柵が堺筋本町駅にて稼働開始。
2021年11月20日:四つ橋線初の可動式ホーム柵が西梅田駅にて稼働開始。
2022年3月5日:御堂筋線なんば駅で可動式ホーム柵が稼働開始。御堂筋線全駅へ設置完了
2022年7月17日:堺筋線天下茶屋駅にて、改良された「2枚扉式」の可動式ホーム柵が稼働開始
2023年3月5日:堺筋線天神橋筋六丁目駅で可動式ホーム柵が稼働開始。堺筋線全駅へ設置完了
2024年3月9日:中央線初の可動式ホーム柵が森ノ宮駅にて稼働開始
2024年3月26日:Osaka Metro初の黒い可動式ホーム柵が谷町四丁目駅にて稼働開始
2024年9月13日:中央線長田駅で可動式ホーム柵が稼働開始。中央線の既存全駅へ設置完了
2025年1月19日:中央線夢洲駅開業。可動式ホーム柵を整備済
関連リンク
参考文献
- 林久和, 中本征志, 千崎東亜雄(2005)『大阪市営地下鉄における転落事故の統計的一考察』,交通権学会
- 上野 幸一 (2013) 『大阪市交通局における可動式ホーム柵の導入』, 運転協会誌.
- 喜多 玲匡 (2021) 『御堂筋線への可動式ホーム柵導入』, 大阪市高速電気軌道株式会社.
- 京三製作所 信号事業部第3技術部・第4技術部 (2014) 『大阪市交通局千日前線可動式ホーム柵システム』, 京三サーキュラー, Vol. 65, No. 6.
- 京三製作所「軽量可動式ホーム柵」
- 京三製作所『可動式ホーム柵システム』
- 各社IR資料
- ロング (2015) 『御堂筋線ー心斎橋駅の可動式ホーム柵(ホームドア)は2015年3月1日から共用開始!』, Re-urbanization -再都市化-, 2015年2月26日.
- Osaka Metropolis『堺筋線のホームドア設置工事まとめ』、2022年2月15日
- 大阪市交通局『大阪市高速電気軌道第8号線井高野~今里間 地下鉄建設記録』、平成21年3月
- 大阪市交通局『大阪市中量軌道南港ポートタウン線ニュートラム建設記録』、1983年12月
公式リンク
[R1] 御堂筋線
・日本信号「2022年3月期 決算説明資料」(2022年5月20日,24p)
・Osaka Metro「御堂筋線なかもず駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2020年10月30日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線江坂駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2020年11月21日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線 西中島南方駅に可動式ホーム柵を設置します!!」(2020年11月12日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線江坂駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2020年11月28日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線新大阪駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2020年12月21日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線西中島南方駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年1月23日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線中津駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年3月15日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線梅田駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年3月22日,Waybach Machine)
・Osaka Metro「御堂筋線昭和町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年4月19日)
・Osaka Metro「御堂筋線西田辺駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年5月24日)
・Osaka Metro「御堂筋線長居駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年6月21日)
・Osaka Metro「御堂筋線あびこ駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年7月19日)
・Osaka Metro「御堂筋線北花田駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年8月16日)
・Osaka Metro「御堂筋線新金岡駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年9月6日)
・Osaka Metro「御堂筋線淀屋橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年9月27日)
・Osaka Metro「御堂筋線本町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年10月25日)
・Osaka Metro「御堂筋線大国町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年12月20日)
・Osaka Metro「御堂筋線東三国駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年1月11日)
・Osaka Metro「御堂筋線動物園前駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年1月17日)
・Osaka Metro「御堂筋線なんば駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年2月28日)
[R2] 谷町線
・京三製作所「KYOSAN REOPORT」(2019年3月期 中間報告書)
・Osaka Metro「谷町線 南森町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年11月22日)
・Osaka Metro「谷町線 天満橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年12月9日)
・Osaka Metro「谷町線 谷町四丁目駅 可動式ホーム柵の運用開始について」(2025年1月14日)
[R3]四つ橋線
・Osaka Metro「四つ橋線西梅田駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2021年11月15日)
・Osaka Metro「四つ橋線大国町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年2月14日)
・Osaka Metro「四つ橋線 肥後橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2023年12月15日)
・Osaka Metro「四つ橋線 本町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年1月22日)
・Osaka Metro「四つ橋線 四ツ橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年2月19日)
・Osaka Metro「四つ橋線 なんば駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年9月30日)
・Osaka Metro「四つ橋線 花園町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年10月7日)
・Osaka Metro「四つ橋線 岸里駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年12月23日)
・Osaka Metro「四つ橋線 玉出駅 可動式ホーム柵の運用開始について」(2025年1月24日)
[R4]中央線
・Osaka Metro「中央線 谷町四丁目駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年3月18日)
・Osaka Metro「中央線 堺筋本町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年4月1日)
・Osaka Metro「中央線 本町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年4月15日)
・Osaka Metro「中央線 阿波座駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年5月7日)
・Osaka Metro「中央線 九条駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年5月20日)
・Osaka Metro「中央線 弁天町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年6月3日)
・Osaka Metro「中央線 朝潮橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年6月28日)
・Osaka Metro「中央線 大阪港駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年7月8日)
・Osaka Metro「中央線 コスモスクエア駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年7月15日)
・Osaka Metro「中央線 緑橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年7月29日)
・Osaka Metro「中央線 深江橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年8月5日)
・Osaka Metro「中央線 高井田駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年9月2日)
・Osaka Metro「中央線 長田駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2024年9月11日)
[R5]千日前線
・大阪市交通局「千日前線全駅で可動式ホーム柵の設置が完了しました」(2014年12月22日,Waybach Machine)
[R6]堺筋線
・Osaka Metro「堺筋線天下茶屋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年7月11日)
・Osaka Metro「堺筋線動物園前駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年8月22日)
・Osaka Metro「堺筋線日本橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年9月20日)
・Osaka Metro「堺筋線 長堀橋駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年10月17日)
・Osaka Metro「堺筋線 北浜駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年11月21日)
・Osaka Metro「堺筋線 南森町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2022年12月19日)
・Osaka Metro「堺筋線 扇町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2023年1月23日)
・Osaka Metro「堺筋線 恵美須町駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2023年2月20日)
・Osaka Metro「堺筋線 天神橋筋六丁目駅の可動式ホーム柵の運用開始について」(2023年2月27日)
[R7]長堀鶴見緑地線
・大阪市交通局「可動式ホーム柵情報(長堀鶴見緑地線)」(Waybach Machine)
北大阪急行
・京三製作所『北大阪急行電鉄 千里中央駅の可動式ホーム柵を受注いたしました 』,2017年6月15日
・京三製作所「KYOSAN REOPORT」(2018年3月期 中間報告書)
・京三製作所(2018)「北大阪急行電鉄株式会社千里中央駅可動式ホーム柵システム」、京三サーキュラー, Vol. 65, No. 6.