大阪メトロの「サインシステム」まとめ【完全解説】

大阪メトロの「サインシステム」まとめ【完全解説】

このページでは、2015年から採用されている大阪メトロのサインシステムについて、解説記事としてまとめています。

 

サインの解説

2015年に本町駅で初めてお目見えした、2代目となる大阪メトロのサインシステムです。

この新しいサインシステムでは、和文フォントにヒラギノUD角ゴ、英文フォントにパリジーン(Parisine)が採用されました。

特に英文の「Parisine」を採用するのは、日本の鉄道企業では大阪メトロが初めてです。

和文:ヒラギノUD角ゴ
英文:パリジーン(Parisine)

 

デザイン

路線案内時のサインでは、標示の底部までカラーが垂れたようなデザインとしています。

色の表面積を増やすことで、高所や視認性が悪い場所にあっても見やすく配慮されると共に、Osaka Metroのアイデンティティとなっています。

番線表記サインは基本的に従来と同じ仕様ですが、サイン下部に路線カラーが入れられてアクセントとなりました。

路線カラーにも具体的な指定があり、そのカラーは下記の通りです。

【色の基本仕様について】

1号線:赤 – DIC 2485
2号線:紫 – DIC 501
3号線:青 – DIC 641
4号線:緑 – DIC 2561
5号線:ピンク – DIC 274
6号線:ブラウン – DIC 322
7号線:萌黄 – DIC F281
8号線:柑子 – DIC N743
ニュートラム: – DIC 640

尚四つ橋線の一部駅については、経年劣化を考慮したのか、やや紫がかった濃い目の色が用いられている箇所があります。

鉄道会社の顔とも言える「駅名標」も、サインシステム更新に伴いリニューアルされました。

デザイン上における従来との変更点としては、

・路線記号を右上に配置
・前駅表記を薄字に
・駅ナンバリングに対応したデザイン

・列車進行方向を「>>>」で表現

している点です。

路線・出口案内の縦型誘導サインでは、到着地までの残距離がメートルで示されており、初めての利用でも直感的にわかりやすくなりました。

ピクトグラムは『JIS(日本工業規格)「案内用図記号JIS Z 8210-2002』を基本としていますが、路線記号や出入り口番号などは大阪市交通局時代に定められたものを使用しています。

【大阪市交通局での独自指定】
・地下鉄路線記号(©️など)
・いまざとライナー
・出入り口番号
・お忘れ物センター
・切符売場
・駅長室
・ekimo
・大阪地下街株式会社施設
(Whityうめだ、なんばWALK、あべちか等)

【Osaka Metroで追加】
・Osaka Metroロゴ

【案内用図記号JIS Z 8210-2002】
・他社鉄道線
・バス(大阪シティバスを含む)
・エレベータ
・エスカレータ
・階段
・トイレ

 

掲載にあたっては上・左が基準となっていますが、その序列はまず社内路線かどうか、次点で残距離を基準としています。

上図だと

①御堂筋線(社内路線+220mで近い)
②四つ橋線(社内路線+590mで遠い)
③阪神電車(社外路線+260mで最も近い)
④JR線 大阪駅(社外路線+380mで近い)
⑤阪急電車(社外路線+540mで遠い)
⑥JR線 北新地駅(社外路線+590mで最も遠い)

という順番です。

一部において例外はあるようですが、基本的にはこのルールで掲載されています。

出口表記は従来通り、JIS規格に則った黄色地に黒文字に。黄色はやや淡くなりました。

出口は JIS Z 9103「図記号-安全色及び安全標識-安全色の色度座標の範囲及び測定方法」という規格内『 駅舎,改札口,ホームなどの出口表示』に定められています。
マンセル記号は7.5Y 8/12です。

 

各標示について

駅名標

【素材】
表示面:アクリル板+出力シート貼り仕上げ
本体枠:既存品の流用
照明:LED

 

番線表記

下部にラインカラーを配置しています。

2019年2月に施工された御堂筋線天王寺駅から、番線表記に駅番号が入れられるマイナーチェンジが行われました。

【素材】
本体:アルミ型材塗装、LED照明・中空仕様
表示:アクリル成形出力シート貼仕上

 

床乗車位置サイン

乗車位置を示すサイン。写真は大阪市交通局時代のものです。

和文書体に「見出ゴMB31」、数字書体に「Helvetica」を使用しており、「ドア」表記となっています。

こちらはOsaka Metroサインに準拠したタイプ。

和文書体に「ヒラギノ角コ゚」、数字書体に「Parisine」を使用しており、「扉」表示になっています

【素材】
本体:アルミ型材塗装、LED照明・中空仕様
表示:アクリル成形出力シート貼仕上

 

誘導サイン(平面型・階段)

壁面設置タイプの誘導サイン。路線に近い記号を近い順から配置しています。

【素材】
枠:アルミ押出型材
表示面:アルミ複合板+出力シート貼り仕上げ

 

誘導サイン(柱付型・壁付型)

今回のサインから非常に多く登場したのが、柱巻きタイプのサインです。

【素材】
枠:アルミ押出型材
表示面:アルミ複合板+出力シート貼り仕上げ

 

誘導サイン(床置型)

床敷用に出力されるシートタイプ。

【素材】
表示面:出力シート貼り

 

注意・マナーサイン

【素材】
塩ビ板t0.5+出力シート貼り仕上げ

 

 

サインの歴史

ここからは、新しいサインシステムのこれまでの歴史をまとめていきます。

2013年-計画策定

民営化自体は見据えていたものの、まだ大阪市交通局時代であった2013年。

当時の大阪市交通局から後述する4社へ、新しいサインシステムにまつわる業務委託が行われました。その結果、

・ジーエータップ(現:TAP)
・日本サイン
・竹内デザイン
・GKグラフィックス

これらが特別共同企業体(JV)となってタッグを組み、新しい大阪メトロのサインシステムを作ることになりました。費用は609万円です。

 

地下鉄をご利用のお客さまの移動円滑化をめざして、これまでサインの整備を行ってきた。
しかしながら、バリアフリー設備の設置や駅舎の大規模改良等によりお客さまに迷いを生じさせたり、近年は色覚障がいのお客さまや車いす使用のお客さま等、さまざまなお客さまへの対応も迫られている。
こうした諸課題に対応するためには、サイン本来の機能を十分に発揮できるようにサインシステムを再構築することが必要である。
そのためには、サインシステムのリニューアル基本計画の策定が必要不可欠でもあることから、通常の競争入札方式ではなく、鉄道サインにおける計画や設計の実績が豊富な事業者を広く募集し企画提案いただく公募型プロポーザル方式により、委託事業者の選定を行った。
参加のあった技術提案調書について、当局職員に加え外部有識者を含む審査員において厳正な審査を行った結果、技術提案調書が優れていると評価がなされたため、「ジーエータップ・日本サイン・竹内デザイン・ジイケイグラフィックス特別共同企業体」と契約を締結する

出典:1)

 

2015年-設置

それから2年間音沙汰がありませんでしたが、2015年2月8日に初めて本町駅にてお目見えしました。

これが、現在も採用されている非常にスタイリッシュなサインシステムでした。

非常に驚きを持って迎えられ、当サイトでは初めての大きいバズを獲得するほどでした。

 

 

ちなみに、大阪市交通局のサインシステムは先代も本町駅からスタートしています。これは以下の理由によるものです。

3線が交差する御堂筋線本町駅となんば駅については、地上への出入り口もそれぞれ27ヶ所、29ヶ所と多く、乗客の乗車系・降車系とも複雑に錯そうしているので、まず本町駅から案内表示のトータル・サイン・システムを採用することとし、専門のデザイナーに設計を委嘱して、分りやすい案内標識を整備した。

出典:大阪市交通局「大阪市交通局百年史」(p.406)

もはや伝統ですね。

 

 

2016年-拡充

試験的設置だったのか、1年程度は本町駅以外には動きが見られませんでした。

しかし、2015年12月19日から新たに堺筋線北浜駅へ2駅目の設置が始まりました。

 

工事施工開始日 対象駅
2015年12月19日 北浜
2016年2月24日 淀屋橋
2016年3月11日 恵美須町
2016年8月3日 谷町九丁目(7番出口)
2016年10月24日 梅田
2016年10月31日 なんば(千日前線)
2016年11月18日 九条

 

2017年-筐体の変化

2017年になると、標示自体こそ新しいシステムに準拠するものの、筐体はそのまま流用するといったケースが見られるようになりました。

おそらく、筐体の更新に関するコストを抑えるためとみられます。

工事施工開始日 対象駅
2017年1月23日 日本橋(堺筋線)
2017年10月9日 森ノ宮(中央線)
2017年10月20日 森ノ宮(長堀鶴見緑地線)

 

工事施工開始日 対象駅
20187月17日 南森町(5番出口)
201810月27日 鶴橋

 

2019年-「梅田サイン」の制定

大阪メトロとは別個の動きとして、梅田界隈でデザインを統一した「梅田駅周辺サイン整備事業」が立ち上がりました。これは

・鉄道会社ごとにサインシステムの様式や色使いが違って統一性がなく、文字でなく図や色で理解している利用者には混乱を招いている
・ただでさえ魔境・梅田ダンジョンなどと呼ばれているのに、各社独自のサインのせいで更に混乱を招いている
・独自サインのせいで情報の断絶(ミッシングリンク)が起こっている。

という問題認識から、大阪府・市などがルールを定め、補助金を拠出するものです。

梅田サインについては、Osaka Metroだけではない事業なので、別ページで扱います。

 

工事施工開始日 対象駅
2019年1月22日 天王寺(御堂筋線)
2019年2月8日 東梅田(梅田サイン準拠)
2019年4月16日 天王寺(谷町線)
2019年4月26日 東梅田(大阪メトロ準拠)
2019年5月12日 新大阪
2019年8月16日 西梅田

 

工事施工開始日 対象駅
2020年1月29日 南森町
2020年2月26日 駒川中野

 

2021年以降

工事施工開始日 対象駅
2021年7月上旬 天神橋筋六丁目
2022年1月21日 江坂
2024年2月25日 四ツ橋
2024年5月31日 心斎橋
2024年12月 大阪港

 

その他

野良サインの撲滅

現業の方が独自に作るサインを「野良サイン」と言います。上記の御堂筋線の写真のように、中には秀逸なデザインもあります。

しかし、基本的にはデザイン関係・バリアフリー関係には素人が作るものなので、可読性・可視性が壊滅的なケースが多く、天王寺駅では白地に白文字という可読性を徹底的に蔑ろにした悲惨なケースも見られました。

 

サインシステムは、文化・言語・国籍の違いや老若男女、各種障害のいずれもを問わず利用出来る機能性、および移動円滑化に寄与するだけでなく、統一したルールによる配置を用いることで、鉄道事業者のブランディング化としても機能するものです。

それだけに、各社ともデザイン・フォントの選定に手間をかけていますが、野良サインはそれらの需要を徹底的に無視してぶち壊していることに他なりません。

 

 

大阪メトロの担当者もこの問題点について認識しているようで、鉄道趣味誌に以下のような回答をしています。

お客さまの安全確保に係る情報や、施設の使い方・マナー等に関する情報など、提供すべき情報が増え、お客さまが最も必要とする情報がわかりにくくなるケースが生じたり、多様な掲示物や広告と駅案内サイン(紙貼りも含め)が無秩序に氾濫して駅構内の景観を損ね、地下鉄事業のブランドイメージの低下に繋がりかねないといった課題も生じている

出典:2)

この観点から、民営化後は原則的に野良サインの設置を禁止しているようです。

 

 

ただ、現行のサインシステムだけでは情報量が不足しているのもまた事実のようで、先の資料には続いて

バリアフリー設備の設置や駅舎のさまざまな改良により、駅の案内サインに不足が生じては増設を繰り返し(中略)リアルタイムで追加の情報を求められることに対して、補助的に貼り紙を行って凌いでいる(略)

出典:2)

とも書かれています。

 

 

デザインバランスの悪化

新しいサインシステムでは、極力情報を詰め込もうとする傾向があり、フォントの縦横比やバランスにあまり重きを置いておらず、やや不格好なきらいがあります。

先述した「野良サインの撲滅」とも共通しますが、案内サインの情報量が少ないとミッシングリンクが発生し、現場で独自のサインを継ぎ足す必然性が生まれます。

また、サイン箇所を増やすとコストも増加することもあり、おそらくはこれらをまとめて解消する手段として情報量を詰め込む傾向があるものとみられます。

 

 

関連リンク

大阪メトロの「野良サイン」が急激に減っている理由とは

参考文献

  1. Waybach Machine「随意契約理由書 – 地下鉄駅舎サインシステムのリニューアル基本計画策定業務委託」,(大阪市交通局,2013年2月)
  2. 電気車研究会「鉄道ピクトリアル 8月号臨時増刊号、特集 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)」、27-28p
  3. 大阪市交通局 鉄道事業本部 建築部 建築施設課『3号線なんば駅案内標示改良工事』、平成29年5月
  4. 大阪市交通局 建築部『階段記号標示板(出入口階段)』『標示板仕様(電照式シルクスクリーン仕様)』等、平成22年10月



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