【形式紹介】ニュートラム100系

【形式紹介】ニュートラム100系

大阪市交通局100系は、1981年3月16日~2001年3月22日まで営業運転されていた、新交通システム「ニュートラム」用の初代車両です。

新交通システムとして日本初とよく取り上げられる「神戸ポートライナー」とは僅か1か月の後にデビューした、悲運の電車でもあります。

 

解説

導入まで

鉄道では大きすぎ、バスでは小さすぎる…という、その間を埋めるニッチな交通手段として考案されたのが、新交通システム(AGT)です。

大阪市は南港地区を元々臨海工業地帯とする予定でしたが、社会情勢の変化からニュータウン「南港ポートタウン」の造成に取り組むことになりました。

ここへの交通手段として、AGT路線の導入を検討していました。

 

この当時、AGTシステムには新潟鐵工所・住友商事が主導の「NTS」や、川崎重工主導の「KCV」、神戸製鋼所「KRT」様々なシステムがありました。

大阪市は検討を重ねましたが、結果的に経済性・安全性で高得点を得た新潟鐵工所の「NTS」システムが採用されました。

NTSグループの構成企業

・新潟鐵工所(現在の新潟トランシス)
・住友商事
・住友電工
・東洋電機製造
・日立製作所
・日本信号
・日本エヤーブレーキ(現在のナブテスコ)

ちなみに現在でも新潟鐵工所の後継である新潟トランシスが保守作業を受け持っており、後継車両である100A系・200系もこちらで製造されています。

『大阪南港新交通システムの炭布選定に関する報告書」
機種選定の評価にあたっては、無談の正確を期するため、軌道、駅、分
岐、車両基地、走行案内装置、変電所(電気方式を含む。)電車線、信号
保安、および集中管理の項目に細介して、それぞれ、安全性、信頼性、保
芋の容易さ、省力化の可能性などの点から、技術的に検討し、さらに、輸
送能力、延設工程など、大阪南港地区計画との適合性、検計項目相互の関
進、経済性なども考感に入れ、機種別に総合評価を行った。
その結果、新交通システムのすべての機種は、それぞれ特性があり、導
入する地域の条件への適合性に相達があることが認められた。
委員会は、大阪市が大阪南港地区に浮入する機種としては、KCV、K
RT、NTSの3機種が適当であるとの結論に達した。
しかしながら、上記の3機種についても、技術的に若干の解決、あるい
は、追跡確認すべき問題点があり、大阪南港地区の導入にあたっては、
メーカー側、使用者側ともども、真剣な検討と実用経験を経て、今一層の
信頼性の向上を図る必要がある。
なお、委員会は、新交通システムの安全性については、技術的に十分確
保できると判断するが、新しい交通機関への乗者の不慣れなどを考え、当
初は、添乗員を乗せて運行し、信頼性の向上と社会的コンセンサスを得
で、段階的に省力化すべきであろうと考える。

 

出典:1)

デザインについてはかなり細かく検証が重ねられました。上図は原型とされたイメージです。

ここから細かなデザインが練られていきました。

原型案提出

非常口の位置を検討(センター・オフセット)

標識灯の位置検討

カラーリングの決定

最終決定

 

NTS導入が決まったことで、1979年に初めて製造されたのが100系01編成です。

この車両は試作車扱いで、新潟鐵工所の大山工場やNTS実験線にて試験が行われました。試験後は01編成も営業運転へと組み込まれています。

本線の試運転は1980年6月から中ふ頭~ポートタウン東間で、9月からは全線で行われました。

 

写真提供:丸に木瓜様

 

 

1981年の開業までに01~13編成が導入され、輸送が好調なことから1986年には追加で14~16編成が導入されました。

ちなみに01~05編成、および二次車の14・15編成は鉄道事業法準拠で、それ以外の編成は軌道法準拠での落成となっています。

 

デザイン

100系は、日本初となる新交通システムということもあり、また新進気鋭のポートタウンとのまちづくりともマッチするよう、「従来の鉄道車両を脱したもの」をコンセプトに作られました。

 

まずはそのインパクト大な前面形状

ヘッドライトがなんとスカートに埋め込まれ車体には尾灯のみを装備するという従来では考えられない、非常にアヴァンギャルドなスタイルですよね。

未だにこういった車両は現れていないのではないでしょうか。

 

写真提供:丸に木瓜様

ボディは南港の明るい風景をイメージした白い塗装で、ラインカラーとしてセルリアンブルーが入れられています。

この色は側面においてスピード感を意識して先頭部分の端で斜めに持ち上げられており、上から見るとまるで矢のように見える配色が行われました。

 

また、保守作業員向けの警戒色として貫通扉には赤色が塗られています。これはニュートラム計画における「差し色」としても機能しています。

沿線地域であるポートタウンは高層団地が多いこともあり、屋根にも色が塗られました。この伝統は現在の200系でも続いています。

 

艤装

車体は、海のそばを走るにも関わらず何故か鋼製が採用されました。

一般的に海沿いを走る鉄道は塩害で錆びやすくなりがちで、先に挙げた神戸ポートライナーの8000形ではアルミ車体が採用されています。

ポートライナーは川崎重工主導の「KCV」システムですから、当時よりアルミ車体も製造可能でした。

 

鋼製車体は、短命に終わった100系の理由としてよく引き合いに出されるのですが、何故鋼製が採用されたのかははっきりしません。

何故鋼製だったのか…。その理由に「新潟鐵工所がアルミ車体の製造に対応していなかった」説があります。

 

新潟はアルミが作れない?

新交通システムは全体のパッケージで導入されますから、特に初期ロットはそのパッケージを担当するメーカーで作られることになります。

新潟鐵工所の後継である新潟トランシスは、現在もアルミ車製造ラインがありません。ということは必然的に、この時点でもアルミ車は作れないことがわかります。

 

次にステンレスですが、こちらの事情は少し煩雑なので以下にまとめました。

鉄道車両でステンレス車体がメジャーになるのは、1985年の国鉄205系の製造でライセンス公開が行われてからです。
それまではライセンス特許があってどこでも作れるものではなかったですし、特許を回避してステンレス車を試作した近畿車輛も、結果的に1車両のみに留まりました。

ニュートラム100系が製造されたのは1979年ですから、「当時の新潟鐵工所はステンレス車を作れる技術がなかった」ということにもなります。

後継車両である100A系・200系は、共にどちらもステンレス車体となっています。

やはり技術的観点から「鋼製以外で作りたくとも作れなかった」という事情が垣間見えますね。

 

 

100系は一見小型車体ですが、他の地下鉄車両でも用いられる幅1,300mmの乗降扉を採用しています。

これは「地方鉄道法建設規定」「新交通システム設計基準」などを法規を参考にしたとのことで、。扉だけは一般的な鉄道車両と同じになっています。

 

廃車へ

住之江公園駅衝突事故(101-13F)

出典:3)

順調に思えたニュートラムでしたが、1993年10月5日の17時30分。

100系13編成が、住之江公園駅の車止めに30km/hで衝突。乗客250名中217名が負傷する事故が起きてしまいました。

この日はインテックス大阪でイベントが行われていたようで、乗車率80%となかなかの乗客数であったことも被害者の拡大につながりました。

 

原因検証が行われた結果、通電不良でブレーキがかからなかったことが要因にあったようです。この関係で、2000年までは車掌が乗車する措置が採られました。

この衝突した100-13編成は、1994年9月29日付で廃車。100系としては初めての廃車となりました。

いみじくも「13」番が事故当該になりましたが、後継の200系でもこの「13」は忌み番号としてスキップ、欠番となっています。

 

震災の被災車(101-01F)

写真提供:丸に木瓜様

こちらの記事でも書きましたが、試作車でもある100系01編成は、阪神大震災時に運行していたことで大きく壁面へ激突。

そのまま引きずり走ったことで、側面窓が前から3両まで大きく大破しました。

ちょうど100A系への置き換えが進んでいたこともあり、3月末をもって廃車となりました。大阪市交通局では、唯一の震災による被災廃車でした。

 

 

その他

上記2車両以外についても順次廃車が進みました。

まずは07編成が1994年12月に廃車され、94年度の廃車車両が2車両となりました。

その後は段階的に廃車が行われ、2次車として増備された14・15・16編成以外は1997年までに全廃。残りの3編成も2001年(14・15F)・2002年(16F)に廃車され、これをもって100系は姿を消しました。

尚、101-06号車のみ、緑木検車場にて保存されています。

 

 

主要諸元表

 形 式 101 100 102 105
 車体構造
 車 種 M1 M2 M3 M6
 自 重 10.8t 10.5t 10.5t 10.8t
 定 員 72(座席22) 75(座席24) 75(座席24) 72(座席22)
 車体長 7,600mm
 車体幅 2,290mm
 車高 3,150mm
 制御方式 サイリスタ位相制御
 主電動機(90kW)
TDK-8820-A(東洋電機)
 歯車比 N/A
 運転台 ワンハンドル(P3、N1、B5、EB1)
 営業最高速度 55km/h
 設計最高速度 60km/h
 加速度 3.5km/h/s
 減速度 4.0km/h/s(常用最大)  5.0km/h/s(非常時)
 集電方式/電圧 側面接触式 / 交流剛体複線式 3相交流 550V
 集電装置 PT-64-B
 (設置台車) N/A N/A N/A N/A
 所属 南港検車場

 

関連リンク

【ニュートラム】100系編成表

阪神大震災で「大阪市営地下鉄」が受けた被害の記録

参考資料

  1. 大阪市交通局『大阪市中量軌道南港ポートタウン線ニュートラム建設記録』
  2. 交通協力会『交通技術 36(8)(447)』、1981年8月
  3. 消防通信社『消防通信 = The information of fire protection = ファイアジャーナル誌 20(10)(476)』、1993年10月
  4. 日立評論『新交通システムへの”ALSUS”複合剛体トロリの適用



書いた本



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