近畿日本鉄道7000系は、1986年9月23より営業運転を開始した近鉄東大阪線(現:けいはんな線)・中央線用の車両です。
これまでとは全く異なる設計思想で作られたこの形式は鉄道友の会「ローレル賞」や、鉄道車両としては初となる「グッドデザイン賞」を受賞しています。
近鉄社内で用いられる電算記号は「HL」で、ファンの間でもこの呼び方が定着しています。
電算記号とは
簡単に言えば車両型式を区別する為の符号のこと。アルファベット2文字で使用される。
HLは近鉄7000系・7020系のことを指し、7000系05編成なら「HL05」、7020系01編成なら「HL21」という使われ方をする。
近鉄では同じ顔つきでも派生形式として全く違う機器が積まれていたりすることが多く、他社であるような形式呼びでは「1251系」など一見何を指しているのかわかりづらいような事例が多くあることから、わかりやすい電算記号で呼ばれることが多い。
解説
これまでの近鉄とは全く異なる新規格の新線として生駒~長田間が開通。大阪市営地下鉄中央線と相互直通運転を開始しました。
それに伴い用意されたのが、この7000系です。
近鉄東大阪線の開業は10月1日ですが、それに先立って行われたダイヤ改正日である9月23日から、先行的に大阪市営地下鉄中央線内にて運行を開始しました。
直通先の中央線では、新機軸のアルミ製20系が製造されていましたが、近鉄としてはこれまで実績のあった鋼製としています。
高いデザイン性
従来の近鉄電車は赤色でしたが、7000系ではこれまでと全く異なる3色を採用しました。
車体色には明るいパールホワイト、ラインカラーとして生駒から登る太陽をイメージしたソーラーオレンジ、更に差し色として、大阪港の海を表すアクアブルーのトリコロールを採用。
パールホワイト…「パール」は近鉄の象徴です。
というのも、近鉄は沿線の伊勢湾で取れる真珠から、伝統的に「パール」という名称を使用する事が多く、近鉄バファローズも古くは「近鉄パールズ」という名前でしたし、「近鉄パールクイズ」「近鉄パールカード」など、パールを使用する例は枚挙に暇がありません。ソーラーオレンジ…生駒から昇る太陽(大阪市から見て東側)をイメージした、鮮やかなオレンジ色の名称として採用されました。
アクアブルー…大阪港につながる路線であることから、大阪港の海をイメージしたアクアブルーを差し色として採用しています。
これらのカラーリングは、現在に至るまでけいはんな線近鉄車両のイメージカラーとなっています。
ちなみに、2004年までは東大阪線のイメージカラーとして採用していましたが、けいはんな線開業時にイメージカラーを中央線と合わせた黄緑色に変更しています。
これらの影響から、鉄道車両としては初となるグッドデザイン賞を受賞しました。
7000系のデザインがいかに斬新だったのかは、当時のグッドデザイン賞を審査した大学教授から、辛辣な言葉と共に7000系を応援している様子からも伺えます。
グッドデザインマークを授与された近鉄7000系の車両のように(筆者はその時の審査委員の一人であった。)外装に透明な明るい色を持った車両が多くなった(中略)
これまでの鉄道車両の多くは、わずかな例を除いて、産業の衰退を表現するかのように、見る人の心を暗くするようなくすんだ寒色系で、仕上がりの感心しない塗装をされるのが殆んどであった。
外観の造形にしても、同じ車両の仲間である日本の自動車のデザインが、パリの街中で、思わず振り返った素晴らしいデザインの車が日本車であったりするほど、世界の一流レベルにあるのに、鉄道車両ときたら、わずかな例外を除くと、わざと醜くデザインされたのかと皮肉の一つも言いたくなるほどであった。出典:運転協会誌 29(11)(341)「運転協会誌 29」(11)(341)、『明日に向かって立ち上がる車両技術』、井口雅一、1987年11月
検査は「普通の近鉄線」を通って…
7000系が所属する東生駒車庫では定期検査が行えないので、本格的な研修設備のある「五位堂検修車庫」へと輸送されます。
回送の際には乗降扉に設置されているステップが外され、「モト」という電気機関車に牽引されて東生駒⇔五位堂間を輸送されます。
【回送のルート】
東生駒車庫⇔奈良線連絡線⇔(奈良線)⇔大和西大寺⇔(橿原線)⇔橿原神宮前⇔八木西口連絡線⇔(大阪線)⇔五位堂
一旦橿原神宮前まで遠回りするのは、線路が繋がっているのが南向きのみで、かつ折返し出来るところが橿原神宮前までない為です。
両方向へ走行するため、2つの「モト」が7000系を挟んで走ります。ファンの間ではこれを「モトサンド」と呼んでいます。
先行試作車
7000系は、近鉄の子会社である「東大阪生駒電鉄」所有の車両として、まず以下の4両編成1本が落成しました。
試作車編成表
編成名 | 基本編成 ← 長田 | 生駒→ |
竣工日 | メーカー | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|
先行試作車 |
7103
– 7503
– 7502
– 7602
|
1984.7 | 近畿車輛 | 東大阪生駒電鉄所属 |
6連化にあたって、7103・7502・7602の3両がそれぞれ02編成へ編入され、7000系02編成として竣工しています。
この関係で、現在でも7102・7602号車の乗務員扉位置が、旅客用の乗降扉よりも下に設置されています。
通常の7101Fと比較するとその差がわかるかと思います。
改造内容
中間更新・高速化改造(2006年)
けいはんな線開業に伴い、自社線内では第三軌条方式最速となる95km/h運転を実施することから、後継車両である7020系に準じた高速化改造・内装更新工事を実施しました。
【工事内容】
・95km/hに対応する高速化改造
・抑速ブレーキの追加(65km/h・90km/hの2つに対応)
・7020系(およびシリーズ21)に準じた内装のリニューアル
側面窓の1枚化(上下分割にして下段を固定)に変更
車内LED表示装置の追加
化粧板の更新
・ワイパーの更新、追加
・車号ナンバー表示のフォントを変更
・側面社名ロゴの変更
・中間車に転落防止幌の設置
・車外スピーカーの設置
行先表示のフルカラーLED化(2019年)
2019年3月から、一部編成の行先表示装置が従来の3色LEDからフルカラーLEDへと変化しています。
またこれにあわせて、英文表記が「全て大文字」→「小文字も交える」表記へ変更となりました。
・「コスモスクエア」はCOSMOSQUARE→Cosmosquareに
・「生駒」はIKOMA→Ikomaに
更に表示装置自体の性能向上(リフレッシュレートの向上)もあったようで、高速なシャッター速度にも耐えれるようになりました。
【2023年現在の更新編成】
・7105F(2019年3月~)
・7106F(2019年3月~)
・7107F(2019年3月~)
ATO設置・ワンハンドル化(2022年)
2022年5月から、直通先の大阪メトロ中央線においてホームドア設置工事、および大阪港~夢洲間で自動運転が開始されることに伴い、7000系もそれに対応すべくATO取付およびワンハンドル化工事が始まりました。
・運転台のワンハンドル化
・ATO/TASC装置の設置
・TASC車上子の設置
・ホームの監視用モニターを設置
ラッピング
これまで7104編成、および7105編成にラッピング広告を実施したことがあります。
7104F(南都銀行「PASTEL-GO)
南都銀行の「PASTEL-GO!」ラッピング。
絵本作家たむらしげる氏によるデザインで、文字通りパステルカラーに身を纏った7000系が走行していました。
期間は2005年3月~2011年8月の6年半でした。
7105F(大阪経済法科大学)
八尾市にキャンパスを置く「大阪経済法科大学」のラッピング車両。
前面腰部分を水色にした他、側面にも大きくラッピングされた車両でした。
期間は2005年6月20日~2006年4月頃まで。こちらは「PASTEL-GO!」よりも短い期間だけの運行でした。
けいはんな線開業
ラッピングというよりどちらかというとヘッドマークに近い趣きかもしれませんが、けいはんな線開業時に前面のみ「祝 けいはんな線開業」というステッカーが掲示されていました。
【対象編成】
7102F
7103F
7106F
7107F
主要諸元表
←長田(6号車) 学研奈良登美ヶ丘(1号車)→ | ||||||||||
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形 式 | 7100 | 7200 | 7300 | 7400 | 7500 | 7600 | ||||
車 種 ※M…電動車 T…付随車 c…運転台付 |
Tc1 | M1 | T1 | M2 | T3 | Tc2 | ||||
車体構造 | 鋼製 | |||||||||
自 重 | 34t | 37t | 28t | 37t | 28t | 34t | ||||
定 員 (着座数) |
125 (42) |
135 (48) |
135 (48) |
135 (48) |
135 (48) |
125 (42) |
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車体長 | 先頭車18,900mm、中間車18,700mm | |||||||||
車体幅 | 2,900mm | |||||||||
車 高 | 3,745mm | |||||||||
制御方式 | VVVFインバータ制御装置(回生ブレーキ、停止・抑速) | |||||||||
主電動機(2M4T) 脈流直巻補極付、定格電圧375V 定格出力140kw(4台/両) |
– | ● | – | ● | – | – | ||||
歯車比 | N/A | |||||||||
運転台 | ~2021年頃:ツーハンドル(P4、N1)・(B6、EB1) 2022年頃~:ワンハンドル(P4、N1)・(B7、EB)+ATO |
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営業最高速度 | ~2004年:70km/h 2005年~:95km/h(近鉄線内のみ) |
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加速度 | 3.0km/h/s | |||||||||
減速度 | 3.5km/h/s(常用最大) 4.5km/h/s(非常時) | |||||||||
集電方式/電圧 | 第三軌条集電/直流750V | |||||||||
集電装置 | 第3軌条上面接触式 | |||||||||
(設置台車) | ● | ● | – | ● | ● | – | ||||
所属 | 東花園検車区東生駒車庫 |
関連リンク
参考文献
近鉄技術研究所「近畿日本鉄道技術研究所技報 16」『東大阪線の電気設備・新造車両の紹介』東大阪生駒電鉄 K.K、1985年3月
なにわの地下鉄「近鉄7000系」