大阪市営地下鉄(現在は大阪メトロ)の車内で、駅到着前や発車後に流れる広告放送。
流れすぎて、すっかり地元の名所と化したスポットも多いのではないでしょうか。
有名どころでは
・昭和町、文の里で流れる「質屋 岡崎屋」
・四つ橋線本町駅の「ねじと工具のサンコーインダストリー」
・心斎橋駅の「東西土地建物の心斎橋プラザビル」
・鶴橋駅の「鶴橋、キムチ宅配便の豊田商店」
…などなど、挙げると枚挙に暇がありません。
すっかりおなじみとなったこの広告放送に、なんと訴訟を起こされたことがあるのだそうです。
しかも上告を重ねて、最高裁判所までいった案件なんだとか。
その訴訟理由は「広告放送を無理矢理聞かされて苦痛だ…」というもの。ほおお…
公務員試験などにもよく登場する、比較的有名な判例なのだそうです。
「(大阪)市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送に違法性がないとされた事例」昭和58(オ)1022
って判例があるんですか…これは面白い「広告放送を無理やり聞かされて苦痛、違法性がある」という訴訟があったそうです
— Osaka-Subway.com/鉄道プレス (@OsakaSubwaycom) May 28, 2019
この訴訟、結果はどうなったのでしょうか。
裁判所のサイトで、その内容が公開されていました。裁判長は最高裁判長裁判官、貞家 克己氏です。
裁判結果は…
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。(中略)被上告人の運行するD鉄道(地下鉄)の列車内における本件商業宣伝放送を違法ということはできず、被上告人が不法行為及び債務不履行の各責任を負わないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。(中略)
上告人の主張は、通常人の許容する程度のものをあえて違法とするものであり、余りに静穏の利益に敏感にすぎるといわれるかもしれないが、わが国における音による生活環境の侵害の現状をみるとき意味のある問題を提起するものといわねばなるまい。
しかし、法的見地からみるとき、すでにみたように、聞きたくない音によつて心の静穏を害されないことは、プライバシーの利益と考えられるが、本来、プライバシーは公共の場所においてはその保護が希薄とならざるをえず、受忍すべき範囲が広くなることを免れない。個人の居宅における音による侵害に対しては、プライバシーの保護の程度が高いとしても、人が公共の場所にいる限りは、プライバシーの利益は、全く失われるわけではないがきわめて制約されるものになる。したがつて、一般の公共の場所にあつては、本件のような放送はプライバシーの侵害の問題を生ずるものとは考えられない。出典:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/292/062292_hanrei.pdf
裁判所のサイトでは単に「地下鉄」としか書かれていませんが、他文献などからこれは大阪市営地下鉄であったことが明らかになっています。
(渋谷 秀樹「地下鉄車内放送と「とらわれの聴衆」–大阪市営地下鉄商業宣伝放送差止等請求事件(最判昭和63.12.20)」など)
市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送に違法性がないとされた事例
市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送は、業務放送の後に「次は○○前です。」又は「○○へお越しの方は次でお降りください。」という企業への降車駅案内を兼ね、一駅一回五秒を基準とする方式で行われ、一般乗客にそれ程の嫌悪感を与えるものではないなど原判示の事情の下においては、これを違法ということはできない。
事件番号: 昭和58(オ)1022、「商業宣伝放送差止等請求事件」
出典:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62292
この裁判では「聞きたくない音によって心の静穏を害されないプライバシーの権利がある」という争点で争っているようですが、個人宅ならまだしも「公共空間という中においては、ある程度多目に見ないといけない」と結論付けられています。
仮にこれが敗訴となっていれば、現在あらゆる鉄道で流れている広告放送は流れていなかったのかもしれませんね。