【形式紹介】大阪市交通局100形(初代)

【形式紹介】大阪市交通局100形(初代)

大阪市交通局100形車両は1933年~1972年まで所属していた、大阪市交通局初の偉大な初代地下鉄車両です。

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牛に引っ張られ…

大阪初の地下鉄である御堂筋線 梅田~心斎橋間3.1kmの開業に向け、現在の川崎重工業(101-104)・近畿車輛(105-106)・日本車両(107-108)・汽車製造(川崎重工業へ合併。109・110)にて合計10両が製造されました。

 

神戸の川崎重工業から大阪駅まで機関車に牽引されてやってきた車両は、駅からなんと牛(と非力な30馬力のトラクター)で牽引することに。

朝4時に大阪駅をスタートして本町(南御堂前付近、平野町3丁目)まで、約2.5kmを4時間かけてゆっくりと運んだ逸話が残っています。

 

十八日朝、梅田貨物駅についた住友製鋼所製作の車台、川崎造船所製の車体搬入が同日午後二時までに車台二両分を終る予定が少し故障し、調子の悪さにも神経過敏になって遅れてしまった。(中略)

車体は梅田駅で別の運搬車にのせられかけたが、一万貫(約三十七トン)もあるだけにチットやソットで動かず、午前四時頃やっと納まって同五時頃動きかけたが一時間一キロの遅足ぶり。阪神前から南北線を通り新町橋で一時間の休憩、南御堂前についたのが同八時、見物人がぎっしりつめかけ、上は黄色に下は空色というスマートな車両に感心し、市電気局(現在の交通局)からも清水建設部長、橋本次長らがつめかけていた。

『大阪市地下鉄の歩み』35p ー 岩村潔 著、市政新聞社、1970年12月

 

車体

車体は現在の19mよりも少し短い、17mの全鋼製。片側3ドアで、片運転台となっています。

カラーにはクリーム色と青色を採用。この塗装を行うに当たり、大阪市電1601型10両に色々な試験塗装をして決定したようです。

将来の連結に備えて、転落防止用の柵(安全畳垣)が取り付けられました。この設備は600形まで受け継がれますが、メンテナンスが厄介ということで一旦廃止されてしまいます。

しかし平成後期になって安全上の理由からこの設備が復活するなど、80年後に再び採用されるような先見の明がありました。。

 

梅田仮停留場に停車する100形
梅田仮停留場に停車する100形

将来的な1,500Vへの対応も見込んで、空気圧縮機や制御装置は複電圧対応となっていました。

当時としては最新鋭の機器設備をふんだんに使用しています。例えば主電動機はこの時代最強クラスの170kWの東芝製SE-146(定格750V)が採用されていました。

あの新京阪P-6ですら149kWですから、いかに最強だったかがよくわかりますね。

 

ブレーキ装置にはアメリカ・ウエスチングハウス社開発のU-5を採用

トンネル内に鉄粉が撒き散ると衛生上あまりよくないことから、マスコンをリバースさせて電気的な制御を行う発電ブレーキも採用しています。

 

車内

車内にはモーターで駆動する次駅表示装置を搭載。現在の車内案内装置の走りともいえる先進的な装備でした。

ただこの装置は故障も多かったそうで、200形移行に受け継がれることはありませんでした。

 

運転台は左側に寄せた片運転台兼車掌室。

開業当時の4駅は全て右側にホームがあるからこれでも良かったのですが、後に開業する動物園前や終端駅などでは左側にホームがあることもあり、戦時中や戦後に乗客がどっと増えた時に、車掌さんがドアを開けるための移動もままならない状態だったそうです。

 

車内の様子。NHK朝ドラ「ごちそうさん」の撮影の際にリフレッシュしたようで、車内の広告などは全て差し替えられていました。

車内灯にはこの時代には標準装備であるグローブ付き白熱灯を採用。2列に配置され、12灯が設置されています。

網棚は設置されていませんが、これは「駅名がよく見えるように」と、「短距離利用者だけで必要がない」との設計思想からです。

 

廃車・保存

開業時から36年に渡って長らく活躍してきた100形でしたが、大阪万博を控えた1969年に30系の御堂筋線集中投入によって廃車されました。

105号車のみ将来的な保存を目的に一旦休車にした後、旧塗装への塗替え・尾灯1灯化の原形復元工事が行われたことで、除籍を1972年まで保留しています。

”5”号車という中途半端な数字の車両が選ばれたのは、改造が少なく登場時の原型に近い形を保っていたからのようです。

 

当初は朝潮橋の交通局研修所にて保存されていましたが、1987年の中百舌鳥検車場開業時に研修所も移転。中百舌鳥に105号車を保存すると手狭になることから、緑木検車場へと移転しています。

この甲斐もあり、緑木検車場にて眠る105号車は大阪市の指定文化財に選ばれています。

 

 

主要諸元表

 

形 式 100
 車体構造
 車 種 Mc
 自 重 40.0t
 定 員 120(座席48)
 車体長 17,700mm
 車体幅 2,890mm
 車高 3,650mm
 制御方式 総括制御自動加減速電動機操作カム軸式
主電動機:東芝SE-146
定格電圧750V
定格出力170kw(2台/両)
 歯車比 64:21≒3.05
 運転台 ツーハンドル(P5、N1、B8)
 営業最高速度 70km/h
 設計最高速度 70km/h
 加速度 2.6km/h/s
 減速度 3.0km/h/s(常用最大)
 集電方式/電圧 第三軌条集電 / 750V
 集電装置 第三軌条上面接触式
 (設置台車)
 所属 淀屋橋出張所→高速車両工場→我孫子検車場

 

 

関連リンク

【形式紹介】奉天市地下鉄100形

【コラム】80年で電車の陸送はここまで変わった

 

参考文献

石本隆一『大阪の地下鉄』

 




書いた本



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