大阪市交通局が1970年万博で行った特別輸送体制とは【コラム】

大阪市交通局が1970年万博で行った特別輸送体制とは【コラム】

早くも、大阪・関西万博の開催まで残り3年。

車両も30000A系の第一編成が竣工したり近鉄けいはんな線7000系が改造されるなど、着々と準備が進められています。

こんな慌ただしくなり始めた様子を見ていると、前回の大阪万博…すなわち、1970年前後の動きはどうだったのかが気になりませんか? …気になりますよね???(圧)

 

今とは比較にならないほど混雑している御堂筋線を使って大量輸送が行われたのですが、意外とその全容は明らかになっていません。

そこで今日は、万博輸送時に大阪市交通局がどのような輸送体制を敷いていたのか、どのような列車があったのかを、御堂筋線の視点から振り返ろうと思います。

 

 

1:30系を大量投入

万博が千里丘陵で開催されることに伴い、御堂筋線(+北大阪急行)と堺筋線(+阪急)が輸送を担当することになりました。

特に力を入れたのが御堂筋線です。

 

▲3062号車は7000-8000形から編入された車両です

当時まだ現役であった3ドア・17m車両である100形などの旧型車両を一掃すべく、当時谷町線と中央線で活躍していた「7000-8000形」をベースに再設計した、4ドア・18m車両である30系を投入。合わせて240両にものぼる大量投入が行われました。

 

旧型車両では、加速性能やATS装置など車両ごとにスペックとが異なることでこれ以上の大量輸送が難しい側面がありました。

そこで、当時の大阪市交通局長であった今岡鶴吉氏の大号令で、30系に全車種を統一。

車体を大型化して詰め込みが効き、仕様統一で運行間隔を短く出来、かつ車両総数を当初予定の282両から42両削減した240両に削減できるなど、まさに効率化の極みといった車両配置を行ったのでした。

この車両の統一化による効率化は、現在JR東海が東海道新幹線で行っていることと全く同じで、早くからこれらを実践していたことになります。

尚、当時谷町線・中央線の最新車両であった7000-8000形は御堂筋線へ転属し、その代わりに「お古」である5000形が投入されたのでした…。

 

01:2025万博では?

今回の2025年万博では、30000A系10編成(60両)と400系23編成(138両)をあわせた、合計198両の投入が見込まれています。

この両数は、まさに30系を240両投入したのと同じことですが、将来的な転属を見据えて形式を2つに分けているのが異なりますね。

 

 

2:VIP特別車両を用意

1970年万博では、50系4連を用いたVIP特別車両が用意されました。

前項で書いたように御堂筋線は当時30系への統一が図られていた中、以下の50系3編成のみはVIP輸送用として留め置かれました、

VIP車両は2編成が用意されると共に、1編成を予備車として準備する合計3編成体制となりました。

 編成名 基本編成
←万国博中央口 | 我孫子→
備考
5012+5018
5012

5512

5018

5518

 

 

5018は
VIP改造車

VIP輸送用編成の大任を拝したのは、50系4連のうち1両である5018号車でした。

 

 編成名 基本編成
←万国博中央口 | 我孫子→
備考
5013+5020
5013

5513

5020

5520

 

 

5020は
VIP席改造車
5002+5003
5002

5502

5003

5503

 

 

また、VIP車両が何らかの理由で動けなくなった際の予備車両として5020号車が、またそのバックアップ用として5002(VIP改造なし)を準備させることとなりました。

VIP車両としての改造内容は以下の通りです。

・中央通路に絨毯を敷き、肘付き椅子5脚を設置
・つり革、広告の撤去
・カセットテープ式自動放送装置(新日本電気製 BAH-581E型)の設置

この改造に1674万円、復旧に58万円の合計1732万円が経費計上されました。

これが3列車分ですから、あわせて5196万円の費用がかかったことになります。

 

万博ナショナルデー輸送の対応

79日間の間、「万博ナショナルデー」が開催されることに伴い、10時までに国賓が到着できるようこのVIP輸送車両を用いた特別列車の準備が行われました。

「万博ナショナルデー」におけるVIP(国賓輸送)列車の運行時刻

【1列車目】
本町 9:09
淀屋橋 9:11
万国博中央口 9:37

【2列車目】
本町 9:24
淀屋橋 9:26
万国博中央口 9:52

【3列車目】
本町 11:09
淀屋橋 11:11
万国博中央口 11:37
(3列車は2列車を万国博中央口から天王寺まで回送させた後の折り返し運用)

※上記駅以外は通過

運用としては、我孫子検車場から出庫させて本町、もしくは淀屋橋まで回送し、始発列車として仕立られます。

そのまま上記時刻で輸送をこなした後、一旦桃山台車庫へと入庫。

復路は桃山台車庫から出庫し万国博中央口まで回送の後、淀屋橋・本町まで送り届けた後で我孫子検車場まで回送される…という方法が採られました。

 

復路の時間についてはまちまちだったのか詳しく明記されていませんが、

「16時20分までに万国博中央口駅を出発させる」
「これに遅れる場合は19時以降に中央口発車とする」

とだけあります。

 

また、VIP専用の貴賓室が本町駅北中階に設けられました。

貴賓室は100㎡の敷地で、設置には1500万円、調度品の設置に500万円、専用階段の整備に500万円の合計2500万円がかけられました。

これまでの文献では「VIP車両は使用されることがなかった」が通説になっていますが、新たに出てきた文献では昭和44年12月11日付での資料も見つかり、この説が揺らぎ始めています…。

 

02:2025万博では?

今回の2025年万博ではそういった話はまだ出てきていませんが、今後特別な車両が作られる(もしくは改造される)可能性はあるかもしれません。

 

 

3:学生用車両

大阪市内の小中学校から、万博を見に行く為の臨時輸送列車も設定されました。

臨時列車のダイヤは次の通り。

第一便:我孫子 9:23発
第二便:我孫子 9:48発
第三便:我孫子 10:12発
停車駅:我孫子~天王寺の各駅、大国町、難波、本町、淀屋橋、梅田、万国博中央口

(団体列車がない場合は一般車両として運行)

毎日どこかの小中学校がこの電車に乗って万博会場まで行っており、輸送のない日は一般車両として運行されました。

例えば、1970年4月21日に設定されたダイヤでは、次の小学生が乗り込んでいたようです。

【第一便】
我孫子9:23発
西田辺9:27 長吉小学校465名
天王寺9:32 丸山小学校509名
大国町9:37 天下茶屋小学校510名
難波9:40 忠岡小学校500名
万国博中央口

【第二便】
我孫子9:48発
西田辺9:52 長吉小学校200名、瓜破北小学校260名
天王寺9:57 丸山小学校100名、信太山小学校228名、信太山中学校196名
大国町10:02 天下茶屋小学校260名、住吉小学校260名
難波10:05 忠岡小学校280名
梅田 10:14 福小学校300名
万国博中央口

【第三便】
我孫子10:12発
長居10:14 鷹合小学校235名
西田辺10:16 瓜破北小学校430名
天王寺10:22 林寺小学校347名
大国町10:27 天下茶屋小学校510名
難波10:29 中央小学校120名、大宮小学校136名
万国博中央口

1車両の定員が100名前後であることを考えると、ラッシュ時並みの混雑であったようですね。

また、この電車は通過駅が設定されていて、梅田を出ると万博会場までノンストップとなっていました。

 

03:2025万博では?

こちらも現在のところはまだ何も出ていませんが、開場後にこういった特発臨時列車が出てくるかもしれませんね。

行き先表示器も自由の効くLEDになっていますし、もしかすると専用の表示を期待できるかもしれません。

 

 

4:看板の増設

先日記事に書いたように、大阪港に残されていたマルコ看板は、海外旅客の便宜を図るために設置されたものでした。

今回も同じように、大阪港や伊丹空港・関西空港においてそういった看板が設置されるかもしれませんね。

 

おわりに

ざーっと書きましたが、いかがでしたでしょうか。

万博まであと3年を切っていますが、この記事で書いたVIP列車小中学生輸送専用列車などが今回も実現するかもしれません。

30000A系と400系の大量導入は既に始まっており、特に30000A系は今年度だけで一気に10本も出揃う予定となっています。

過去の先輩方がたくさんの万博列車を写真や資料に収めたように、私も将来の大阪メトロファンの為に(?)しっかりと記録していきたいと思います。

 

関連リンク

大阪港の「マルコ看板」は70年万博の生き残りだった【コラム】

30000A系32651F、近鉄線内を試運転

【大阪メトロ】新車「400系」がわかるまとめを作りました

 

参考文献

大阪市交通局「国賓輸送地下鉄利用対策」

大阪市交通局「各国要人輸送・国賓輸送」

大阪市交通局「VIP特別列車の改造点」

大阪市交通局「学生団体専用列車の運行について」




書いた本



1号線:御堂筋線カテゴリの最新記事