購入した・しないにかかわらず、自著「マルコに恋して」をたくさんの人に見ていただいているおかげで、最近はマルコ=大阪の地下鉄であるという認識がアップしてきました。
ただ、Twitterを見ていると「マルコ」の他に「コマル」という呼称もあるようで、どっちやねん???と混乱されている方も見受けられました。
正式名称は「大阪市高速電気軌道標識」
まず、このマルコマークの正式名称は「大阪市高速電気軌道標識」という名前です。このことは、大阪市交通局が出していたPDFファイルにも記載があります。
マルコとコマル派、両方がいるのですが、このどちらもが自然発生的な愛称であることから、厳密には正しい呼称ではありません。
出典:http://www.kotsu.city.osaka.lg.jp/library/ct/20130109_auction/ichiran.pdf (2018年3月30日閲覧)
ページ上部右側に
24-03
車両側面「高速電気軌道標識」(大阪市交通局不用品)
と書かれているのがわかりますね。
それを踏まえて、なぜ私が「マルコ」という名前を使い、またそれにこだわるのか。
それにはちゃんとした理由があります。
1.公的な文献が多い
朝日新聞、NHK、そして大阪市交通局公式など……比較的信頼できうる文献は、いずれも「マルコマーク」と記載されています。
大阪市交通局公式の文献としては、少なくとも1983年から「マルコ」の呼称があります。
大阪市交通局
従来もマルコのマークと称する地下鉄のシンボルマークに類する章標が規定できめられていたがどうも一般市民に知られていない。それは何故か。デザイン的に親しみにくいからか、ということになり、ピクトグラム化したものを考えた
出典:大阪市交通局『大阪市地下鉄建設五十年史』(1983年、623p)
鉄道ピクトリアル(大阪メトロ監修)
各ページに「マルコマーク」との記述あり
出典:『鉄道ピクトリアル 8月号 臨時増刊 2019年8月増刊 NO.963、特集 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)』ー 株式会社電気車研究会 著、2019年8月
NHK
4月1日の民営化を前に、堺市北区にある御堂筋線の車両基地では、31日、これまで親しまれてきたいわゆる「マルコマーク」に代わって、新しいロゴマークを車両に貼り付ける作業が行われました。
職員たちは、車両の側面の「マルコマーク」が貼られていた位置の表面をきれいに拭き取ったあと、新しいロゴマークを1枚1枚丁寧に貼り付けていました。ロゴマークは、ことし6月ごろまでにすべての車両で新しいものに変わるということです。
出典:NHK関西『関西 NEWS WEB 地下鉄車両に 新ロゴマーク』
http://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20180331/5648751.html、( 2018年3月31日 19時09分)
朝日新聞
4月1日に民営化される大阪市営地下鉄。そのシンボルマークとして、1933年の開業当初から85年間にわたって使われてきた「マルコマーク」が消えつつある。親しまれたマークの引退を惜しむ声が、ファンの間で上がっている。
「マルコマークが消える前にもう一回だけ大阪に行きたい」「ああ…マルコマーク…」。いま、ツイッターにこんな書き込みが相次いでいる。各地で撮影されたマークの写真の投稿は、地下鉄ファンの間で「マルコ集め」と呼ばれている。
大阪市交通局によると、マークに正式名称はない(筆者注:正式名称は大阪市高速電気軌道標識です)。形から「マルコマーク」と呼ばれてきた。「○(マル)」は大阪市の頭文字「O(オー)」とトンネルの形を、「コ」は高速鉄道の「コ」の字を表す。○の外にはみ出した線は、郊外に路線が延びていく将来像を意味するという。全8路線123駅と全車両で看板などに使われてきた。
出典:『民営化で「マルコ」さよなら 大阪市営地下鉄、切り替え』
https://www.asahi.com/articles/ASL3F3Q74L3FPTIL00F.html、(2018年3月22日12時19分)
2.歴史的経緯
当サイトが「マルコ」呼称なのは
・地下鉄が出来た時に「地下鉄は金食い虫で困る」と揶揄された歴史があることから、交通局としては「コマル」と書かれるとあまり嬉しくないのではないか、と考えたこと
・語感的に使いやすいという理由からです( ˘ω˘ )
— Osaka-Subway.com/鉄道プレス (@OsakaSubwaycom) March 31, 2018
私は特にこれを意識していたのですが、落語家の「花月亭九里丸」氏が「地下鉄は客が乗らずに閑古鳥が鳴いてコマル」とネタにしていたことがあります。
落語家九里丸師匠が高座でいうことに、大阪も河の下や地の底をくぐる地下鉄ができて大変結構なことであるが、開通当初はいざしらず、この頃はお客が減って困っているようである。
だいたい地下鉄のマークが気に入らない。地下鉄のマークは丸にコの字がついている。こんなマークを考えるから、お客が少くなって困っているのだとひやかされる。
出典:岩村潔『大阪市地下鉄の歩み』(1970年,39p)
大阪地下鉄のマークが、片仮名の「コ」とローマ字の「O」の組み合わせであるのはご存知のとおりで、「OSAKAの高速」を意味している。ところが「梅田-心斎橋」開通後の市会で、あまり金がかかりすぎていると言うので、「地下鉄は金喰い虫。コマルのマーク」との問題が持ち上がった。
出典:吉川 寛「大阪市地下鉄60年の車両技術 吊掛式電動車の軌跡」
『鉄道ピクトリアル 1993年12月号 No.585 臨時増刊号 <特集>大阪市交通局』96p
100年先の大阪の未来を見据えて建設した大阪市交通局としては、出来てすぐの地下鉄を見て「困る」だなんて言われるのは不名誉以外の何物でもないはずのこの呼称。
当然、ファンの私としてもあまり使う気にはなれませんでした。
3.語呂がよく呼びやすい
本書のタイトルをつける時、日本語的に呼びやすいかどうかをかなり意識していました。
書名というのは購入してくださる方や口コミ、データベースなどの図書目録、果ては書店の店員さんまでが言葉として使う大事なものです。
どれほどの良書でも題名が専門的だったり複雑だと手にとってもらえない・覚えてもらえないのを各種同人誌即売会で痛感していたので、書名を考えるのには4~5ヶ月ほどかけてじっくりと吟味しました。
日本マクドナルド創業者の藤田田(でん)氏は、日本国内でマクドナルドを展開させるにあたって、呼びやすいかどうかを非常に意識したといわれています。
アメリカ本社からは現地のネイティヴな英語に近い「マクダーネルズにせよ」という指令があったものの、藤田氏はそれを拒否して日本語的に呼びやすい「マクド・ナルド」を推したそうです。
1971年、三越銀座店に1号店を開業して産声を上げた日本マクドナルド。今やすっかり定着したブランドですが、これに決まるまで米本社と日本側に一悶着がありました。発音に忠実に「マクダーナルズ」にすべきだという米国側に対し、初代社長の藤田 田氏は「日本人に『マクダーナルズ』は発音しづらい。『マクド・ナルド』と3音ずつに区切れる方がいい」と主張、押し切ったのだとか。
出典:『「マクダーナルズ」がやって来る:日経ビジネスDigital』http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120229/229278/?ST=pc
同じ理由で、マルコに恋しても呼びやすいかどうかという観点から立つと、「コマル(困る)に恋して」という一見不可識な日本語より、「マルコに恋して」という、どこかイタリア人の名前や静岡の小学校に通うあの女の子の人名にも見える、こちらを採用しました。
また、先程の2項であげたように、あまり良い呼称とは言えない”コマル”には私が恋できなかったということもあります。
まとめ
マルコとコマルは似たように見えてもそれぞれ経緯が全く異なり、更にはどちらも「正式名称ではない」ということには留意しておかないといけませんね。
まあ、どちらもがいわゆる”通称”ですし、私も場合によっては「コマル」を使うこともあります。
どちらを使うかはこれを見ている皆さんの自由ですし、「大阪市高速電気軌道標識」にこだわるのも、頑ななファンらしくていいかもしれません。
関連リンク
参考文献
岩村潔『大阪市地下鉄の歩み』1970年
三田純市『御堂筋ものがたり』1991年7月