大阪市営地下鉄時代から採用され、Osaka Metroでも引き継がれた列車到着時になるあの接近メロディ。
「民営化時になくなるのでは?」と危惧されている方もいらっしゃいましたが、ひとまずは継続して使用されています。
今日は大阪市営地下鉄時代から残る、駅メロディの謎について深く掘り下げてみました。
メロディのコンセプト
当時の文献を見ていると、次のような説明があります。
・CTCから列車位置条件を取り出し、適切なタイミングかつ途中で途切れないようにする
・上下線で同時に放送されても聞き分けができるようにする
・わかりやすく、親しみやすく、柔らかく暖かい新しい音にする
・試験で6回流したものの長過ぎるので、3回鳴動させる(現在は5回)
これらのコンセプトのもと、試行錯誤が繰り返されて現在のメロディが作られました。
登場は1989年
1986年に難波駅で試験的な放送(テープ式の電子効果音)が行われました。これは現在のものとは違う放送だったようですが、詳細な記録がありません。
翌1987年には中百舌鳥延伸を控えていた御堂筋線・中央線・千日前線の全駅にて運用が始まりした。
その後、千日前線阿波座駅で試験放送が行われました。これは以下のようなメロディであったそうです。
A.電気笛+スペクトラム波形+シンセ合成音
B.笛、マリンバの中間的音色
C.コーラス+ベース+カリンバ
これらを組み合わせた3秒の信号音を12種類試作
これらを駆使した結果、現在も使用されている北・西行き(上り、2番線)のメロディが1989年に産声を上げます。
「上りメロディ」(m4aファイル)
このメロディが、まず御堂筋線・中央線・千日前線と、自動放送化が行われた堺筋線で使用が開始されました。
当時は上り下り(2番線・1番線)共にどちらも同じメロディでした。
四つ橋線用メロディが登場
1990年には四つ橋線と鶴見緑地線でもメロディが登場しました。
この時に登場したのが現在の南・東行き(下り、1番線)用メロディです。
「下りメロディ」(m4aファイル)
大国町駅で御堂筋線と同じホームになる為、同一メロディではどちらの路線が接近しているのかわからなくなることを防ぐ目的で作曲されたのだそうです。
すなわち、当時の四つ橋線は上り・下り共にこのメロディが採用されてた他、堺筋線も現在と同じように上り・下りでメロディが使い分けられていました。
つまり、この当時のメロディ使用状況はこういうことになります。
御堂筋線 | 四つ橋線 | 中央線 | 千日前線 | 堺筋線 | 鶴見緑地線 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1番線 | 上りメロディ | 下りメロディ | 上りメロディ | 上りメロディ | 下りメロディ | オリジナル |
2番線 | 上りメロディ | 下りメロディ | 上りメロディ | 上りメロディ | 上りメロディ | オリジナル |
鶴見緑地線は花博との共通世界観
また、鶴見緑地線については、花博の世界観をそのまま路線にも持ってくることを考慮し、現在も使用されている美しいオリジナルのメロディを採用していました。
今里筋線登場時に「どんな新しいメロディが出来るのか…?」を期待して、汎用メロディであったことにがっかりされた方も多いのではないでしょうか。
当時は一日の前半(~16:00)・後半(16:00~)でメロディが異なるというこだわりぶりでしたが、近年まではこの音がどのサイトでも聞けず、幻のメロディとなっていました。
しかし2017年、hatsumelo.comさんがYoutubeにアップされた動画内でようやく聴取可能になりました!
いやはや、良い時代ですね。
これをアップしてくださったhatsumelo.comさんには、感謝の気持ちでいっぱいです…!ありがとうございます!
大阪らしい発メロの歌詞
鶴見緑地線の接近メロディは、それぞれが当時の開業駅である「京橋」「鶴見緑地」を大阪弁で話したものをイメージして作られた…というエピソードは、地下鉄ファンの仲間内や音鉄さん方には結構有名な話なのですが、このページをご覧の皆さんはご存知でしたでしょうか。
このように、メロディに「歌詞」を持たせているのは大阪の地下鉄特有のものですが、他のものにも意味をつけたものがあるそうなのです。
また大阪の地下鉄は、終電到著前(おおよそ前駅到着時)に5点のチャイムが鳴り、この後に終電案内の告知がなされます。
この5点チャイム、実は「かえりましょ~♪」をイメージして作られているのだそうです。
「終電予告チャイム」(m4aファイル)
メロディの作曲者は大阪芸大の元講師
このメロディを作曲したのは、なにわのモーツァルト…ではなく、当時大阪芸術大学短期学部の講師であった藤本 由紀夫さん(1950~ 名古屋市生まれ)なのだそうです。
日本美術オーラルのWebサイトに、こんなインタビュー文が記載されていました。
藤本:花博は直接関係しなかったんですけど、その前に今でも流れている大阪市の地下鉄の、列車警告音のデザインに関わったんですよね。大阪市の人から連絡があって、仕事として、基本コンセプトをつくるという仕事。
その次は花博のために、京橋から鶴見緑地まで新しい地下鉄の線のための、音のデザイン。
最初の計画では、各駅をトータルにデザインし、かつ全部違う音をつくるということだった。
当時はサウンドスケープデザインが盛り上がってた時期なんです。日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ/藤本由紀夫インタヴュー2 ―2018年4月26日閲覧http://www.oralarthistory.org/archives/fujimoto_yukio/interview_02.php
驚くべきことに、当初はなんと各駅全て違う音を導入する計画だったようです。
今の京阪電鉄や大阪環状線がそれを行っていますが、大阪市交通局は30年前にも前に、こんな計画を打ち出していた(導入には至りませんでしたが)んですね。
まとめ
いかがでしょうか。Osaka Metroで流れているあの発車メロディ、聞いてはいてもこんなにたくさんのエピソードがあるなんて、私も調べてみるまで知りませんでした。
今日は接近メロディについて書きましたが、続編として現在「発車メロディ」の方についても書いておりますので、どうぞお楽しみに…!
【追記】書きました
参考文献
- 『大阪市営地下鉄構内における信号音の改善』(1993年、豊崎宏・近藤文雄)
- 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術 = Railway & electrical engineering 2(6)(518)」『大阪市営地下鉄駅構内の音環境の改善について』(1991年、吉村隆之、前川隆恭)
- 『ノッテオリテ Vol.10』(大阪市交通局、2010年11月)