WTCとりんくうビルは本当に高さを競いあったのか?【コラム】

WTCとりんくうビルは本当に高さを競いあったのか?【コラム】

大阪の府市あわせの象徴とも言われる大阪市の「WTC」大阪府の「りんくうゲートタワービル」

両者は日本第3・4位の超高層ビルなのですが、「大阪府と大阪市が高さを競って作った」なんてよく言われています。

 

 ビル名 高さ 竣工年
1位:あべのハルカス (大阪府)  300m  2014年
 2位:横浜ランドマークタワー(神奈川県)  296.3m  1993年
 3位:りんくうゲートタワービル(大阪府)  256.1m  1996年
 4位:WTC(大阪府咲洲庁舎)  256.0m  1995年

 

確かにどちらも同じ時期に同じ程度の高さで竣工しており、そう噂されるのも納得のいくところですが…本当でしょうか?

写真・動画素材用に撮影しに行ったついでに、ちょこっと調べてみました。

 

 

りんくうゲートタワー(大阪府)

2021年現在、日本第3位の超高層ビル。高さは256.1mと大阪市のWTCよりも僅か10cmだけ高くなっています。

りんくうは当初から「西日本一高いビル」を目指して建設されており、関西空港建設に伴い260m級のビルを計画します。

ビルは結果的に256.1mとなりましたが、当初から200mを超えるビルを作ろうとしていました。

1993年当時、西日本で最も高いビルだったのはOSAKA BAY TOWER(以前のORC200)の200.05mでした。

 

また、景気の良いことにりんくうはツインタワー計画で、文字通りゲートのようなビルになる構想だったといいます。

現在のりんくうタウン駅を挟んだ南側にもう1つビルを建てる第二期計画がありました。バブリーですねぇ。

 

(松浪啓一議員)ゲートタワービルについてでございますが、このビルは、りんくうタウンにおいて国際会議場、ホテル、インテリジェントオフィス、ワールドショーケースなどを有する商業業務ゾーンの中核施設であり、西日本一の高さを誇るシンボル的施設としてまちづくりの先導的役割を持ったものでございます。

このたび、りんくうゲートタワービル株式会社において、南北二つのツインビルのうち北側の一棟を先行建設し、南棟は第二期計画とするという事業計画が取りまとめられました。このことは、地元にとっては非常に残念でなりません。なぜかと申しますと、地元では、ゲートタワービルが当分の間一棟だけとなって、南棟の建設が大幅におくれるのではないかという大きな不安を持っているからでございます。

出典:大阪府議会『平成4年2月 定例会本会議 03月05日-05号』

 

(土師幸平議員)府が出資する第三セクターで推進されようとしておりますゲートタワービル、これについても昨年十一月に基本設計が公表されて、そうして国際会議場、ワールドショーケース、ホテル等を主要目的とする高さ二百六十メートルの西日本一の超高層ツインビルの建設がいよいよ進むものと、このように思われるのでございます

出典:大阪府議会『平成3年2月定例会企業水道常任委員会 02月28日-01号』

 

 

WTC(大阪市)

一方、大阪市が作ったのがWTC。2021年現在、日本第4位の超高層ビルで、高さは256.0mになります。

現在は「大阪府咲洲庁舎」となっていますが、元々の名前は大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)といい、当記事ではWTCの表記で統一しています。

こちらは元々高さ150m・総工費520億円の計画でスタートしたのですが、途中で都市計画地区が認定され、容積率が緩和されて高さ252m・総工費647億円へと変更されました。

更にそこから追加で変更が加えられ、1995年に高さ256m・993億円へと変更されました

この急な方針転換の背景には何があったかというと…

 

平成元年(1989年)4月時点の会社設立時の計画では、高さ150m、地上33階・地下2階、総床面積約111千平方メートル、総事業費約520億円であった。
一方、民間企業の立地も少しずつ進む中で、コスモスクエア地区の特性に応じた魅力あるまちづくりを推進し、開発を誘導するため、国際交流拠点や研究開発拠点としての整備とアメニティーの充実を目標とした「大阪南港コスモスクエア地区再開発地区計画」を平成元年(1989年)12月に都市計画決定した。これにより、建築物の用途や壁面後退等の制限を加える一方で、容積率の緩和が可能になり、WTCの敷地の容積率が300%から600%に変更された(中略)

会社としては、WTCビルを西日本一の高さにするなど規模を拡大するほか、ビル前面の広場に大屋根を設置し大規模なアトリウムを建設し、ビルの景観を高めるためライトアップを増やすとともに、アメニティを高めるため最上部に展望台を整備し多目的ホールを設置することとした。
その結果、平成2年(1990年)3月の計画では、高さ252m、地上55階・地下3階、総床面積約152千平方メートル、総事業費約980億円と変更になった。
そして、臨海部における新都心のシンボルとするとの意図から、最終的に平成7年(1995年)4月のWTCビル計画では、高さ256m、地上55階・地下3階、総床面積約149千平方メートル、総事業費約1,193億円となり、大阪府のりんくうゲートタワービルと同じ西日本一の高さとなった。

出典:大阪市『WTC(大阪ワールドトレードセンタービル)計画』、2007年1月7日

 

(藤田あきら議員)私もこのWTCの特定団体調査委員会、なぜ破綻したのかという調書、これ恐らく皆さん読まれたと思うんですけど、これもう法定協議会をやっている間も何度も読みました(中略)

もともとは150メートルの高さの520億円の計画で、資本金が50億円いうことだったんですが、それが計画変更されまして、252メートルになって、借入金は647億円に膨らんでおります。ここまでは大阪市の独自の判断で、都市計画地区が認定されたんで、容積率が緩和されたということなのかもしれませんが、その後、さらにまたこのビルの高さが伸びまして256メートルになりまして、借入金は、先ほどの647億円から993億円に膨れ上がっております。これはなぜかといったら、この調書の中に書いております。26ページなんですが、大阪市のランドマークタワーとして西日本一の高さにすべきだという意見・認識があったということで、もう明らかにりんくうゲートタワービルと競いましたよということが書かれております。
結局、この西日本一の高さにすべきだという意見があって、借入金を膨らましてビルの高さを積み上げたけれども、結果としては、皆さん御存じのとおりりんくうゲートタワービルに10センチ、後でかさ増しされて、西日本一の高さにはならなかったわけです。

出典:大阪市会『令和3年2・3月定例会常任委員会(財政総務) 03月22日-01号』

「西日本一」の座をかけて、既に計画されていた大阪府のりんくうビル計画とタメを張ろうとしたのです。

 

【WTC計画の変遷】

1989年4月…高さ150mで計画
1990年3月…高さ252mに変更
1995年4月…高さ256mに変更

咲洲(コスモスクエア)の開発にあたり、このエリアのシンボルになろうとだいぶ無理をしたわけですね。

 

 

結論

上記文献を見る限りでは、競い合った…というより、当初150mだったのを100m上積みして「WTC(大阪市)側が無理してりんくうビルに追いつこうとした」という説明の方が納得がいく結果となりました。

りんくう側が僅か10cm上回っていますが、この点については「初めから256.1mの計画だったのか、それとも大阪市の計画を知って急遽10cm上乗せしたのか」まではわかりませんでした。

 

いずれにしても、WTCは立地の悪さと甘々で適当な計画が祟ったことで1996年に債務超過、2003年には236億円の債務超過でほぼ倒産状態という最悪な結果に。

一方りんくうゲートタワービルも関空が今ひとつ伸びず、中に入っていたホテルが2005年に破産(特別清算)、親会社も623億円の赤字を抱えて破産したことで、どちらも共倒れする結果になってしまいました。

 

現在、それら2ビルを越えて日本一高いビルの座を保持し続けているあべのハルカス。

日本一高い建造物の座が大阪にあるのは、1889年の凌雲閣(39m)以来だそうです。

都市の活性化の為に超高層ビルを建設する意義そのものは大事だと思いますが……、少なくとももう公営・第三セクターによるこういう過剰なハコモノ事業はゴメンですね。

 

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