御堂筋線のホームドアが全てわかるまとめを作りました【機器完全解説】

御堂筋線のホームドアが全てわかるまとめを作りました【機器完全解説】

Osaka Metroの御堂筋線では、2021年度をもって全駅へのホームドア(可動式ホーム柵)設置が完了しました。

まだ登場したての設備ということもあり、あまり詳しく解説しているサイトがありません。

そこで今回から「完全解説シリーズ」として、鉄道趣味者でもあまりスポットを当てない機器類などについて詳しく解説していこうと思います。

本来の名前は可動式ホーム柵ですが、当サイトではわかりやすく伝えることを踏まえて「ホームドア」の呼称で統一しています。

 

プロトタイプ

まず、2015年に先行的設置が行われたプロトタイプ。天王寺・心斎橋の2駅を皮切りに導入が始まりました。

この2駅が選ばれたのは、御堂筋線の中でも特に転落事故が多かったのが理由です。

プロトタイプ導入時点では試行段階的な要素だったのでTASCなどの定点停止支援装置は導入されず、運転士さんによる手動停止が実施されていました。

大阪市交通局内では「根性止め」と呼んでいたそうです

 

手動運転によるホームドア乗降位置での停止は相当な負担の為、先に導入されていた千日前線のものよりも開口部を300mm拡大した2,600mmとし、停止許容範囲をプラマイ650mmとしました。

 

左が千日前線、右が御堂筋線のもの。わかりづらいですが、確かに御堂筋線の方がやや扉が長いようです。

 

尚、ホームドア導入前には設置への訓練として、「S」のマークが付いた停止位置目印を設置しています。

 

扉の開閉システム

ホームドアの開閉については、最後尾に取り付けられているボタンによって開閉操作を行っていました。

(後述しますが現在は開操作は自動で行われており、閉操作のみをこのボタンで行います。)

 

現在と違い、このプロトタイプ運用時にはホームドアが「閉」状態であることが列車出発の条件にならない(開いていても出発できる)システムだった為、運転士・車掌両氏が同じ信号を確認して出発する為に「開閉状態表示器」が取り付けられました。

 

開閉状態表示器の表示について

上部

赤の○…ホームドア開状態

緑の◎…ホームドア戸閉完了

 

下部

緑点灯…列車在線中

 

ラベルのデザイン

ホームドアへ貼付られている路線図などのラベルに用いられるフォントは、和文に新ゴを用いています。

英文は何が使用されているのか判別がつきませんでした。

 

設置テストはなかもずで

DSC01451_1

またホームドア設置に先立ち、2014年12月に中百舌鳥駅の2番線南端部において、筐体設置の試験が行われていました。

 

不具合

本格稼働後も前部運転台直近の乗降部に設置している2Dセンサーに静電気由来のチリが吸着したことで誤動作が発生しています。

対策として、センサーの汚れを検知する機能を追加し、汚れがたまると通知して作業員がセンサー部の掃除を行うようになりました。

 

仕様

メーカー 京三製作所
開閉方式 左右引戸式
開口部扉幅 2,600mm
停止位置 ±650mm
非常脱出口 なし

 

 

量産タイプ

天王寺・心斎橋両駅での導入を踏まえ、朝ラッシュ時間帯への影響を少なくすべくく改良が加えられたのが現在導入されているタイプです。

先の2駅よりもやや遅れた、2020年度から導入が始まりました。

試行段階でのデータを調査したところ、ホームドア未設置時よりも3秒程度乗降時間が増えることが明らかになっていた為、それを少なくすべく特に開操作に重点を置いて改良が行われました。

寸法や筐体などは基本的に同じですが、より開閉時間を短くできるようにフィードバックした仕様となっています。改良点は次の通りです。

 

①TASCの設置

プロトタイプの項でも書いたようにこれまでは運転士さんの「根性止め」によって停車していましたが、2021年1月9日からTASCの導入がスタートしました。

TASCとは

「Train Automatic Stop-position Controller」の頭4文字を取って「TASC」
簡単に言うと電車を自動でストップさせる装置で、本来ホームドア導入路線には必須なものです。

 

2019年頃からTASCの為の地上子設置を開始し、その後念入りに試運転電車を運行して停止位置の調整が行われてきました。

TASCの導入により列車を確実にホームドア開口部へ停止させることが可能となり、運転士さんの負担軽減が図られました。

 

 

②定位置停止センサーの設置

これまでは列車到着後に車掌さんがボタンを押してドアを開けていましたが、これを列車停止後に自動で開くように改良されました。

到着をセンサーで自動判断する為に定位置停止センサーを新たに取り付け、列車先頭部分へレーザー光を照射して速度・停止位置の検知を行っています。

将来的にはTASCとこのセンサーを用いて、開操作だけでなく戸閉操作も自動で行う予定があります。

これを見越して

・乗務員操作盤による開閉
・駅係員による開閉
・列車連動による開閉

の3モードをあらかじめ選択できるようにしています。

尚、後ほど天王寺・心斎橋のプロトタイプにも設置されており、現在は全駅において自動で扉が開くようになっています。

 

③連結部非常脱出口の設置

量産型タイプから、車両連結部において非常脱出口が設けられました。

 

④新仕様のラベル

民営化後に導入されたからなのか、貼り付けられていたラベルが新仕様となり、わかりやすいインフォメーショングラフィックを用いたスタイリッシュなデザインへと変化しています。

フォントには大阪メトログループ標準の「ヒラギノ角ゴ」と「Parisine」が採用されています。

また、扉収納部分にはラインカラーである赤色のラインが入るようになり、無味乾燥としたデザインのホームドアを引き立てています。

 

不具合

地上駅の江坂駅においては、ホームドアへ雨(新御堂筋からの水しぶき)が降りかかることにより車掌さんの操作する操作盤が赤外線の乱反射によってうまく機能しない不具合がありました。

そこで赤外線出力の増強、および水がかかりにくいガードを設置することで解決しました。

 

2021年6月10日、梅田駅に設置した櫛状のゴムが設置当日の営業1~2番列車によって破壊されるという事態が発生。なんばで折り返し運転が行われる事態になりました。

また、2022年3月3日に本町駅で故障する(ケーブルの焼け焦げによる損傷?)事態が発生しています。

 

仕様

メーカー 不明(日本信号製?)
開閉方式 左右引戸式
開口部扉幅 2,600mm
停止位置 ±650mm
非常脱出口 あり

 

 

設置・準備工事

ホームドア設置にあたっては僅かな営業時間外(0~4時)に設置すべく、より最適化が図られた適切なオペレーション方法が採られました。

 

1.ホーム補強

御堂筋線は大阪メトロの中でも最も古く、特に梅田~心斎橋間では開業90年になろうとしています。

それに加えて500kg以上あるホームドアを設置するにあたって強度が確保できない場所もあることから、新たにホームを支える鋼材を挿入することになりました。黄色なので相対式ホームだとよく目立ちます。

またホーム下には電気設備などもあり、それらを移設することがあることから3ヶ月をかけて移設工事を実施。出来ない場所では炭素繊維シートを用いて補強作業が行われました。

 

2.輸送について

ホームドア設置にあたっては効率よく現地へ輸送すべく、中百舌鳥検車場で列車へホームドアを積み込み、その列車で輸送するという手段が採られました。

輸送列車は必ず10A系が担当しており、21系や30000系が充当されることはありませんでした。

 

DSC01899

筐体の輸送は日本通運が行いました。

 

3.ベースプレート

ホームドアの根元部分におけるベースプレートを先行的に設置し、営業時間に躓かないよう上からカバーを被せる方式が採られました。

ホーム部分に穴を開けてベースプレートを設置、治具で固定した跡にモルタルを流し込んで固着するという手法です。

 

これにより、ホームドア到着時にはこのプレートへ筐体根本部分を滑り込ませて固着するだけになり、作業時間の効率化が図られています。

 

導入時期

【プロトタイプ】
・天王寺…2015年2月
・心斎橋…2015年3月

【量産タイプ】
・なかもず…2020年11月
・新大阪、江坂…12月

・西中島南方…2021年1月
・中津、梅田…3月
・昭和町…4月
・西田辺…5月
・長居…6月
・あびこ…7月
・北花田…8月
・新金岡…9月
・淀屋橋、本町…10月
・大国町…12月下旬

・東三国…2022年1月中旬
・動物園前…1月下旬
・なんば…3月

 

関連リンク

【御堂筋線】電車が自動で止まります…自動停止装置「TASC」運用開始

【御堂筋線】長居駅にホームドア設置開始!その様子を見てきました

【御堂筋線】なかもず駅に可動式ホーム柵(ホームドア)を設置?

 

参考文献

「大阪市交通局における可動式ホーム柵の導入」上野 幸一(大阪市交通局)、2013年

「御堂筋線への可動式ホーム柵導入」喜多 玲匡(大阪市高速電気軌道株式会社)、2021年

京三サーキュラー Vol65 No.6 「大阪市交通局千日前線可動式ホーム柵システム」、京三製作所 信号事業部第3技術部・第4技術部、2014年

京三製作所「軽量可動式ホーム柵

YCS-info「Osaka Metro 御堂筋線のホームドア:天王寺駅・心斎橋駅」、2019年8月13日

 




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