大阪メトロの昇圧(高電圧化)は出来ないのか?【コラム】

大阪メトロの昇圧(高電圧化)は出来ないのか?【コラム】

大阪メトロの第三軌条5路線は、一般的な鉄道と異なり750Vというちょっと低い電圧で運行しています。

一般的な鉄道は直流だと1500Vで運行しています。

 

特に御堂筋線では10両もの長大組成を行っているにも関わらず、開業当初から750Vに据え置かれており、だいぶ無理をしているんだろうなぁ…と外から見てて思うところです。

というか「そもそも1500Vの昇圧すればいいのでは?」と思うのですが、そもそも昇圧は可能なのか・可能ならば何故しないのか…という疑問を持ったので調べてみました。

 

 

技術的には可能

実は、大阪メトロの1500Vへの昇圧は技術的には可能なのだそうです。

平成6年に発表された文献によると、以下のポイントを踏まえて対応すれば昇圧しても問題は出ないだろう…としています。

・移行期間中に走る電車を750V/1500Vの両方に対応させる(複電圧車を用意)
・第三軌条線の起電ケーブルを直流1500V以上のものへ取替
・集電装置のヒューズが大型になるので、現在のバネ下位置からバネ上へ持ってくる必要がある
・第三軌条終端部で出るアークは少しだけ大きくなるものの、今とそれほど変わらない

 

 

昇圧するメリット/デメリット

電圧を上げるメリット・デメリットについては以下の通り。

【メリット】

・変電所の設置間隔を広げられ、余剰の土地は再開発に活かせる
・車両を増結したり電車を増やす場合、新たに変電所の設置が必要なくなる
・変電所が少ないので、事故時にどの変電所が原因なのか特定が早くなる
・電圧変動率が小さくなるので回生失効の割合が減り、節電できる
・回生失効が少なくなるのでブレーキシューの減りも遅くなる

※御堂筋線を例にあげると、変電所は現在の14ヶ所(東三国・南方・中津・梅田・曽根崎・本町・心斎橋・大国町・天王寺・昭和町・長居・あびこ・北花田・中百舌鳥)から8ヶ所へと削減することが可能としています

 

【デメリット】

・複電圧仕様の電車、設備、第三軌条など初期投資額がかなり大きい
・移行期間も非常に長くなる
・漏洩電流が大きくなるので第三軌条の絶縁強化が必要になる
・離隔距離を広く採る必要があるので保線作業がしにくくなる

※費用的問題については、今回の試算では20年で投資費用の回収が可能としています。

 

これらを踏まえ、京阪電気鉄道や南海電気鉄道では600Vから1500Vへの昇圧を行っています。

 

何故無理?

技術的に費用的にも現実的な昇圧ですが、何故今になっても実現していないのでしょうか。

恐らく、法令がその道を阻んでいるものと思われます。

国土交通省が発表している「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準」においては、サードレール路線の標準電圧は直流750Vか600Vと定められています。

この改正を行わないと技術的・経済的に可能であっても、むしろ社会的合意をかけるコストの方が高くなってしまいそうです。

 

1500Vの御堂筋線を見られるか

そもそも750Vと定められたのは、将来的に御堂筋線を郊外電車と直通させる時に、計算が容易になるよう1500Vの半分にした…という説もあります。

もっとも、将来的に12両編成を走らせる構想があったので「12両運行だと600Vでは到底足りない」と電気的知見を持った側近の方が進言したのかもしれません。

 

結果的に現在まで昇圧は叶っていませんが、将来1500Vの大阪メトロを見る時が来る日はあるのでしょうか。

 

関連リンク

日本で唯一の第三軌条⇔架線の連絡線を見てきました

 

 

参考文献

「サードレール高電圧化に関する調査研究」財団法人 大阪市交通事業振興公社 巖 純二

国土交通省「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準

 

 




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