ニュートラムのサインシステムは、他の大阪市営地下鉄のものと少し違っているのが特徴です。長堀鶴見緑地線も同じくフォントが異なりますが、ニュートラムに至っては「矢印」のデザインまでもが異なっています。
これは、ニュートラムではなく「南港ポートタウン」という街全体でのサイン計画に沿ったものなのです。南港ポートタウンは、駅でいうとポートタウン東~ポートタウン西~中ふ頭が該当します。
和文フォントには写研の「ナールD」が、英文にはおなじみ「Helvetica」が使用されています。それぞれの採用理由は次の通り。
ナールDの採用理由
従来の公共施設、駅舎等に使用されていた丸ゴジック(注:原文そのまま)と比べ、太くなく、字角が大き張って字づらのよい書体である。英字、シンボルとも適合し、しかも柔らかく眼に快適であるものを選択し決定したのが主たる理由である。
『Nanko Amenity Plan 南港ポートタウン環境デザイン計画1977報告書』(大阪市港湾局,1977年,44p)
Helveticaの採用理由
可読性、シンボルとの適合性が優れ美しい。全公共施設の表示に強いインパクトのある書体であり適当であると考える。また、大文字、小文字は仕様上にスペース上の無駄が比較的に少なくすみ、まろみによって形づくられる字形が、可読性を助けていると同時にシンボルとの一貫性を保って配置されるものと確信する。
『Nanko Amenity Plan 南港ポートタウン環境デザイン計画1977報告書』(大阪市港湾局,1977年,47p)
先進的な街づくりを目指したポートタウン
時は1970年代。団塊の世代が生まれて20年が経過し、徐々に新しいファミリー層が増加しつつありました。
彼らを受け入れるために整備されたのが、この南港ポートタウンなのです。
南港ポートタウン計画の中心地である「ポートタウン東駅」は、どこか私鉄の住宅地駅のような形相です。
この上に、ニュートラムが走っています。
この地域では、基本的に自動車の乗り入れが禁止されています。
どうしてもという場合は、守衛のいる管理事務所で通行券を貰う必要があるほど徹底されています。交通戦争の激しさを反省した1980年代らしい作りです。
南港ポートタウンにある高層団地の一例。南港ポートタウンは全てが大阪市営かURの高層住宅です。
ガーデンハイツ(近鉄不動産)マリンハイツ(新日鉄系不動産)、エバーグリーン、フローラルハイツなど
あとUR市営以外に民間じゃないですが公社もありますね pic.twitter.com/MDbQkIoeMs— 南港⚓️ 咲洲⚓️ ポートタウン (@minaminominato) December 29, 2017
【追記】一部、民間分譲マンションもあるようです
その形相は、さながら高度経済成長期の未来都市、といった感じ。
中ふ頭駅より。ポートタウンの市営高層住宅を背景に。
中ふ頭駅3番出口には、南港ポートタウンの「花のまち」という案内があり、一体的に施工されたことが窺えます。
当時は近未来的だったであろう駅舎も、今はどことなく寂しげな感じ。
オーバーサインの排除
ニュートラムサインの特筆すべき点として、「オーバーサインの排除」を標榜とする点が見られます。
このサインは、見やすい、わかりやすい、無駄のない、統一のとれたものでなければならない。
標識がひとり歩きをしたり、人間不在であったり、オーバーサインであることは、とりもなおさず人々を混乱させ、目的を達することはできないのである。
出典:『Nanko Amenity Plan 南港ポートタウン環境デザイン計画1977報告書』(大阪市港湾局,1977年)
現在でもこのサイン計画に則ったデザインは進められ、バリアフリートイレ設置時のサイン交換でも特徴的な矢印が引き継がれています。
ただ、同じくデザインコンセプトを制定していた長堀鶴見緑地線が、今回のサインリニューアルで他線と統一されはじめていることから、この南港ポートタウン線(ニュートラム)でも他線と統一されるのは時間の問題かもしれません。
開業から40年が経過しようとしているニュートラム。特徴的なサインが姿を消すのも、そう遠くないのかもしれませんね。
これまでのニュートラム探訪
http://osaka-subway.com/newtram03/
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Photo,Writer :Series207 2017/12/28